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2010.5.12 【理】
Novel stage / original:Absoetia
《理師》
「理師としての訓練、ですか?」
通常の歴史講義の後、唐突に王子は守り役の青年へ尋ねた。
「そう」
少年は至極真面目な顔をしている。
「僕にも素養はあるのだろう。なら、訓練したら使えないのかな?」
「……どうでしょう」
理師としての力はかなり先天性の要素が高い。
素養そのものは"翼持つ娘"の血を引く全ての者、即ち初代国王の血を受け継ぐ者はどんなに末端の血族でも持っている。しかし、その因子が力として顕現するかどうかはわからないのだ。
現に今の国王はそれ程強くはないが理の力を発動できるものの、王女王子は発現するに至っていない。そして血族としては遠いレディスやキルシェは、現国王とは比較にならないほど強い理の力を扱える。
「使えない、と言い切ることは私には出来ません」
しばし悩んだ後、キルシェはそう答えた。すると王子が勢い込んで言う。
「なら、試してみるべきじゃないか?」
だが青年は首を横に振った。
「王子、貴方には他に学ぶべきことがあるでしょう」
話題に蓋をするように彼は本を数冊両手に抱え、部屋を出る素振りをする。
「けれど」
少年はまだ諦めていなかった。
「この国が建国から平和でいられたのは、理師の力による部分が大きい。なら、素養があるのなら力を起こしておくべきではないのか」
子供らしい真っ直ぐな意志。
もちろん、力を使ってみたいという好奇心の部分がないといえば嘘になるだろう。ただ国を守りたいという願いにも嘘はない。
王子の考えを汲み取った上で、それでもキルシェは首を縦に振らなかった。
「それは貴方である必要はないのです。何の為に私達がついているのですか」
それに、と青年は不満顔の少年へ続ける。
「貴方には私達を使うことを覚えていただきたい。王子、確かに理師の数は少ない。けれど多すぎても纏めることができなければ離反してしまう」
「……私には、その纏め役をやれということか?」
少年の不満が少しずつ納得へと変わっていく。
「それだけではありません。規模が小さければ、今度は適切な場所に適切な者を送り込む采配が必要になります」
まるで授業の続きのようになってしまった部屋の中で、青年は変わらない口調で話し続ける。
「為政者に必要なのは力そのものではなく、力を上手く使うこと。それは、貴方もご存知ですね」
尋ねられた王子が一つ頷くと、キルシェは改めて荷物を抱えたまま一礼する。
「講義が長くなりましたね。それでは失礼します」
「あ、うん」
その姿が見えなくなるまで目で送ったテルマ王子はしばし考え。
「……上手く丸め込まれた気がする」
一応納得しながらもどこか釈然としないものを感じていた。
Fine.