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2010.5.17   【植】

Novel stage / Fun Fiction:LοV

《氷の種子》


 



 

 かすかな吹雪の合間から見える宵闇が辛うじて夜だと知らせる、雪嵐の村。
 見張りをしていたヒルダは油断なく注意を配っていた。
 だが、それは外部というよりは、むしろ目の前の人物に対して。
「ルヴニール」
「な、なにー?」
 慌てたように窓から彼女の方を向いたルヴニール。その動作が妙に怪しい。
「何かあるのか」
「な、何かって、何?」
 こてん、と首を傾げて見せる。だがどう考えても誤魔化しだ。
 けれどあえて追及する必要などない。そう、ヒルダは考えていた……しかし、あっさりと撤回することになる。
「あ、えーっとね、ヒルダちゃん。私ちょっと見回り行ってくるよー」
 こんなことを言い出すロードがいる為に。
 いそいそと立ち上がるルヴニールの襟首を掴んで、バーサーカーは即座に引き倒した。
「ふぎゃん!」
「お前は残れ。私が行く……抱えてるばかりではわからんぞ。ルヴニール」
 ヒルダの口から、自然に続きの言葉が紡がれた。
 ぽかん、とした表情を見ることもなく背後において、彼女は外套を纏い、小屋から外へと歩いていった。

「……何を言ってるんだ私は」
 自らの余計な一言にヒルダは戸惑っていた。
 最初は追及する必要すら感じなかったはずなのに、何も話そうとしないあのロードの様子がイラついて仕方がない。共に旅をする仲間の中でも大して強いわけではないのに、彼はいつも肝心なことを隠す。
 しかし、以前はそんなことすらどうでもよかったはずなのに。
「私が、変わっているのか……?」
 呟きすら吹雪の中へと消えてしまう一面の白。その中に、赤い光が点った。
「何者だ」
 考え事をしていても周囲への警戒を怠らない狂戦士としての癖。それが彼女を光へと導いた。

 ヒ ト ダ

 ヒルダにはその唇は読めなかった。
 見えたのは、吹雪に溶け込むような白く長い髪と服とも言えない纏っただけの赤い布。手に持った人間の髑髏。
 虚ろな目をした女性の姿は、バーサーカーの眼前でその姿を大きく変えていく。彼女にとって非常に見覚えのある姿に。
「……なん、だと」
 ヒルダの目の前には、彼女へバーサーカーとしての戦い方を教えた師匠がいた。慌てて周囲を見回せば、そこはもう一面の白ではなく、慣れ親しんだ狂戦士達の育つ地。改めて注意すれば師だけではなく共に学んだ狂戦士もいる。
 彼らの刃の矛先は全てヒルダへと向けられていた。殺気の矛先も。
 そして、ヒルダもまたその一対の長刀を構え直す。
 親しいがゆえに知っているのだ。彼らの殺気には殺気で対抗しなければ、待つものは死のみであると。
 にらみ合うだけの時間は、そう長くなかった。

「シャーマンちゃん、シャーマンちゃん、起きてー!」
 横になっていた森の巫女は慌てた青年の声に起こされた。
「ん……ルヴニール?」
「幽霊が倒れてとり憑いてヒルダちゃんに大変なんだよー!」
「お、落ち着いてくださいませ」
 説明になっていない説明を喚く青年を宥めながら少女は状況を確認する。
 この騒ぎでまだ横になっているのはグレムリンとバーサーカー。前者はぐっすり眠っているだけだが、後者は明らかに様子がおかしい。
「ヒルダさん?」
 シャーマンは先にたたき起こされたらしいオークオラクルと共に様子を窺う。呼吸が浅く、酷くうなされていた。時折空を掻き毟るように腕が宙空へ伸ばされる。
 そしてその気配には、明らかに彼女のものではない異質な気配が混ざっていた。
「憑依じゃの。わかりやすいくらい典型的な」
「そのようですわね」
 司祭にしろ巫女にしろ、この類の症状は非常に見慣れたものだ。
「これだけの人が死んだ地……確かに亡霊が出現してもおかしくないですわね」
「恐らくは急激なものじゃろうからの。死んだことすらわかっておらぬ者がおるやもしれぬ」
 二人は症状を的確に判断していく。だが、少女が悔しそうな表情を浮かべた。
「困りましたわ。今手持ちに祓いの植物を持っておりませんの。解毒や傷病用のものはございますのに……」
「ど、どうしようもないのー?」
 何故か普段以上に動揺している青年がじたばたと走り出しそうになるのを黒翼の男性が押さえつけた。
 少女は答えられずにいる。
 しかし、オークの司祭があっさりと言った。
「なんとかなるやもしれぬぞ」
「え?」
 シャーマンの少女が驚いて司祭の方を見る。老司祭はほっほっほと笑いながら、彼女へ答えた。
「凍り付いてはおるが、ここの植生を考えれば使えそうなものがあるやもしれぬ。主なら判別がつくであろう?」
 昼間の探索時にオークオラクルはそこまでチェックしていたらしく、大まかな植物の分布まで説明してみせた。
「た、確かにそれならあるかもしれません……」
「まあ夜に出るのはいかに吹雪で昼夜が関係ないといっても危険じゃ。夜が明けてからにすることじゃ、の」
 ごすっ。
 言い終わるか否かのタイミングで飛び出しかけたルヴニールを、フィーギーナとカイムが同時に気絶させる鈍い音が響いた。


 To be continued...


 

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