[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2010.5.19 【鉄】
Novel stage / Fun Fiction:Fire Emblem 聖戦の系譜
《剣を持つ手》
ずさっ、と軽い身体が石畳の上を滑っていく。
手から離れた長剣がからからと音を立てた。
「……っ」
転がった少年は何度か咳込んで、よろめきながら立ち上がる。赤い外衣についた埃を落とすこともせず、取り落とした鉄の剣を拾う。
そしておぼつかない構えをとった。
「続き、お願い、します」
息も絶え絶えの少年が教えを乞うているのは青髪の青年。銀の剣を持つ均整の姿は凛とした威厳を漂わせる。
だが、今、彼の表情は戸惑いの色を見せていた。
「シグルド公子……」
「あまりに急激な負荷はかえって身体を痛める。アゼル公子、そろそろ君にとっては限界を超えている」
呼びかけに対して青年は何度目かの制止を促す。しかし少年は受け入れようとしなかった。
「まだ、平気です」
返事と共に乱れていた息がすっと整う。
魔道士である少年の集中力は戦士に匹敵、時には凌駕するほど高い。戦場という決して静寂のない場所で魔法を駆使する為には必要な能力だからだ。
ただし、それは武器を扱う素養の一つにはなっても以上にはなり得ない。
駆け出した少年を見た青年が繰り出されるであろう剣を受け止める為に持っている剣をひきつけた。
剣も身も軽い少年は一気に距離を詰め、手の中の武器を振るう。ふらついていた足元はしっかりと大地を捉え、剣の支えとなる。
そして、剣と剣が交わる。
かんっ。
さして動かしていない青年の銀の剣に当った鉄の剣は軽く弾かれる。武器の重さもウェイトも足りなければ、必然的に与える重みも少ない。
続く反動を利用した二撃目、三撃目も受け止められる。けれど、少年の勢いは止まらず更に繰り出される剣。
しかし、青年へ届くことはなかった。
受けていた青年が攻撃の合間に銀の剣を逆手に持ち替え、少年の胴部を狙ったのだ。
「あ……」
高すぎる集中力の代償。剣を振るうこと、刃の流れを途切れさせないことに尖らせていた意識は、自身の防御に対する反射すらも凍らせる。
剣を振り下ろす前に少年はなすすべもなく跳ね飛ばされた。着地は足から出来たが、集中が切れたふらふらの身体はまともにたっていることすら出来ない。
「ここまでだ、公子」
「……はい」
座り込んだまま項垂れるアゼル。今度は離さなかった剣を持つと、青年は少年へ肩を貸して立ち上がらせる。
「急にこんな無理をしたがるとは、何かあったのか」
一人で歩きたがる少年を宥めながら、シグルドは尋ねた。詰問ではなく、ただ尋ねたのだ。
何でもない、そういいかけた少年の唇が止まる。ためらった後、ぽつり、と呟いた。
「……"炎"では守れないものを、守りたかったのです」
それだけを言うと疲労の蓄積が限界に達したのか、ぐらり、と上体が傾ぐ。慣れない刃を支えていた身体は少年が考えていた以上に負荷がかかっていたようだ。
地面へぶつかる前に余裕を持って青年が抱え留める。
「"炎"では守れないもの、か。それは、よほど君にとって大切なのだろうな」
炎に愛された家系に連なる彼が炎では守れないと言い切るもの。その為には戦いを嫌っていても、剣を取ると決心させるもの。
その存在に想いを馳せながら、青年は抱えた身体を王城の中へと運び込んでいった。
炎とは全てを焼き尽くす業火であり、誰かを暖める温もりである。
それは周りを巻き込む、という意味において、異なるようで同じもの。
Fine.