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2010.5.22   【話】

Novel stage / Fun Fiction:世界樹の迷宮

《赤と白と青の物語》


 


 

 エトリアの広場に面する金鹿の酒場。
 世界樹の迷宮へ挑む冒険者達が増えてから、多くの人間が押しかけるようになった。
 迷宮へ実際に挑む冒険者。
 冒険者を相手にする商人。
 新たな生態系を探す学者。
 そして、冒険者へなりに来た者。

 今日も新しい旅人が辿り着いた。
 扉を開けて入ってきたのは赤い髪と鎧が印象的な元気のよさそうな少年と長い金髪の白衣を纏う少女。
 彼ら、というより彼は入ってくるなり女主人へと話しかける。
「冒険者ギルドってどこにあるんだ!?」
 挨拶も何もない開口一番の質問。後ろで驚く少女が止める暇もなかった。
「冒険者になるにはそこへ行けばいいんだろ? なあ、どこなんだ!?」
 更に言い募る少年へ酒場の主人は一瞬驚くも、優しい微笑みを浮かべて諭そうと口を開いた。
 しかし、言葉が発せられたのはそこからではなかった。
「いきなり飛び込んできて騒ぐな。礼儀をわきまえろ」
「なっ!?」
 少年の右手側、カウンターに座る一人の少女が先に言葉を発していた。不釣合いなほどいかめしい金属の盾と鎧を纏い、凛とした雰囲気を持っている。
「お前には関係ないだ」
「ルージュ!」
 突っかかろうとした少年を止めたのは彼と共に来ていた少女。慌てて少年の前に立ち、驚いたままの主人と言葉を発した少女へと頭を下げる。
「す、すみません。悪気はないのです」
「いいのよ。それより落ち着いて、ね」
 ぺこぺこと頭を下げる少女に酒場の主人は優しい言葉をかける。だが、鎧を纏う少女は違った。
「ふん。礼儀も知らぬような馬鹿者は迷宮に入っても死ぬだけだがな」
 辛辣な口調で言い切ると鼻で笑う。これには収まりかけた少年も再び激昂する。
「んだと!?」
 そのままの勢いで掴みかかる少年。しかし掴まれた少女は平然としたものだ。
「礼儀知らずなだけでなく暴力まで振るうか?」
 それどころかまだ挑発するだけの余裕があった。
「こ、この……っ!」
「止めてください!」
 胸倉を掴んでいない手が振り上げられ、すがる白衣の少女。
「二人とも、必要なら話し合ってください!」
「離せシエル!」
 場が収まらなくなり、あわや喧嘩に発展するか、というところで、ぱんぱん、と手を打ち鳴らす音が響いた。
「貴方達、そこまでよ」
 表面上は微笑を浮かべた酒場の主人が穏やかな声で言う。しかし、その言葉には有無を言わさぬ迫力があった。
「ギルドの場所も必要なら教えて差し上げるわ。けれど、その前に少し来ていただけるかしら」
 疑問の形を取っているが、それは明らかなる強制。しなやかな指先が店の裏口を示す。
「もちろんルージュと言ったかしら。その手は離してあげてね」
「あ、ああ……」
 冷や汗をかきながら少年は握っていた手を開く。冷や汗は少年だけでなく、場に立ち会う二人の少女の額にも浮かんでおり、三人は促されるままに店の外へと向かった。

 そして、数十分後。

 酒場にはカウンターに突っ伏す三人の少年少女の姿が見えた。
 それでもシエルと呼ばれていた少女は比較的元気ではあるが、残り二人は完全に気力を削がれたようで何も言えないでいる。
 眼前で女主人は平然とグラスを磨いている。
 そして完全に疲労状態である盾を持った少女へ微笑みながら声をかける。
「そういえば貴方はまだ入るギルドを決めていなかったわね。面倒を見ると思ってこの子達と組んでみてはいかがかしら?」
「そ、そんな、私達なんて登録も……足を引っ張ってしまいます」
 指された当人より白衣を着た少女の方がわたわたと慌てた。
 しかし言われた少女は上体を起こしながら、思案げに首を傾げる。
「礼儀を叩き込むのにも都合がいいな。それに……」
 言いながら彼女はおろおろと手を動かす少女を見上げる。その目線が持っているのは一種の感服。
「……怖いだろ?」
「ああ……」
 赤髪の少年の言葉に、ためらいなく頷く。
「そ、そんな」
 顔を真っ赤に染めて少女がそっぽを向く。長い金色の髪が左右に揺れた。

 こうして、彼らのギルドは始まったのである。


 Fine.


 

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