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2010.5.27 【鎖】
Novel stage / Fun Fiction:LοV
《紅の道標》
一対一から一対三へ。そして一対多数へ。
数十本もの刃がほぼ同時に繰り出される。
隣の、前の者など全く気にしない刃はヒルダを中心とした十人弱を切り裂いていった。
「っが……っ!」
狂戦士が何人も倒れ伏す中で、彼女もまた膝をつく。見える太刀筋は避けられても、人の体を貫く見えない刃は避けようがない。
急所はかろうじて避けられていても右胸、脇腹、大腿部に左腕。自身の血と刃が纏う狂戦士の血で彼女は一瞬にして朱に染まった。
左手の長刀が手から離れて地へ落ち、狂戦士達の雄叫びが響き渡った。
「わたしは……まけた、のか……」
仲間だからとて力を抜いてはない。対多数の訓練も積んだはずなのに、今、崩れ落ちている。
急速に失われていく命の水を感じる彼女の唇から、言葉がこぼれた。自身の肉体が、重い。
歓喜の声を上げる狂戦士達が屍を踏みつけてヒルダを取り囲んだ。
じゃらり、と鳴る太い鎖が彼女の体へ巻き付けられる。何十にも重なって。
まだ握っていた右手の武器も取られた。バーサーカーにはもはや抵抗する力も、心もなかった。
不思議なことに、彼女は非常に穏やかな気持ちで結果を受け入れた。
彼女も、狂戦士達と同じバーサーカーであったから。
(戦って、負けて死ぬ、か。当然だな……)
狂戦士達は雄叫びを鳴き交わしながらヒルダに巻き付けた鎖を引いていく。
鎖が彼女を締め上げ、傷口に砂が食い込み、砂塵がまとわりつく。本来なら絶叫を上げるか耐えきれず気絶するような激痛。だが、鍛えられた精神は苦痛をかみ殺し意識を手放すことを許さない。
狂戦士に引きずられ、ざりざりと地面を滑りながらヒルダは見た。
シャーマンの少女は身に纏う衣が歯切れにもならなくなるくらい切り刻まれていた。
オークの老司祭は利き腕を落とされ愛用の六角棒で頭をかち割られていた。
暗殺者の少女は頭部だけでなく四肢をも胴体から切り離されていた。
黒翼を負う男性は羽根が残らないほど長刀が針山になっていた。
グレムリンは小さな身体が更に小さく二つに分れかけていた。
そして僅かに意識が残っている小悪魔がきぃきぃ鳴きながら動かない小さな手を伸ばしている先には。
木へ磔とされた青年。
太い幹に突き刺さる数本の長刀が彼の身体を貫き、地に倒れることを阻止している。
けれど、その口からは僅かに息が漏れている。
生かされているのだ。ロードが死ねば契約している使い魔は全て死滅する。
狂戦士達にとって彼女らは獲物、出来るだけ消える瞬間を引き伸ばしているのだろう。
「……ヒルダ、ちゃん……」
焦点を失いつつある紅い瞳がヒルダを捕らえた。こんな時でも、彼は微笑んで見せる。
「よかったぁ。まだ、生きてた」
自身の置かれている状況とは裏腹に、心底安堵した、という笑み。
「……よくは、ないぞ」
あまりの変わらなさに彼女も苦笑して答える。胸郭が痛むが気にならなかった。
「だいじょうぶ、だよ」
ルヴニールはまったく苦痛を感じさせない笑みを浮かべる。
「ヒルダちゃんが、いきてる。だから、だいじょうぶ」
言いながら、力なく右腕が持ち上がる。
天に向けられた青年の掌に浮かぶのは紅く、紅く、細い鎖。それは彼の内側から生じているように見えた。
「なにを、いっている……おまえは」
「あきらめなければ、だいじょうぶ、だよ。ヒルダちゃん。いや、ヒルデガルド」
ルヴニールがつけた名を呼ばれて、ヒルダは気付いた。
その紅い鎖の端は自分自身に繋がっているということを。
「さあ、ヒルダちゃん」
青年は真実を確信しているかのように、告げる。
「きみののぞみを、つよくもって」
To be continued...