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2010.5.26 【鶏】
Novel stage / original:Absoetia
《天に届かぬ塔の上で》
アブソエティア王城。
そのシンボルともなっているのが、空を貫くように聳え立つ高い尖塔。
王都の人々が毎日見上げている象徴。けれども、誰も知らないことがある。
塔に住む、神話と思われている"彼女"の存在を……。
塔の最上階の部屋にも朝を告げる鶏の高らかな鳴き声は響く。
少女は寝台の上で身を起こした。
年の頃は十六歳程。腰に届く金色の髪、大きな赤い瞳が眠たげに開かれる。そして、背には白い鳥のような翼があった。
彼女は目を擦りながら寝台から下り、格子の嵌った窓へと向かった。鉄の向こう側に広がる無限の空を見つめて呟く。
「おはよう」
誰もいないのに、まるで誰かがいるように少女は微笑む。例え背に負う翼でその空を舞うことが出来なくても彼女は満足そうだ。
「今日もいい天気だわ」
そう嬉しそうに頷くと、少女は鏡台の前で髪を梳き始めた。
窓に格子が嵌っている部屋であるにも関わらず、薄い天蓋のついた寝台に道具の揃った鏡台、テーブルセット、サイドテーブル、クローゼットなど生活に必要なものが高品質で揃っていた。
まるで、位の高い囚人のように。
かつん。かつん。
石造りの階段を上っていく音が響くのを、髪を整えた少女は耳にした。
彼女はぱあっと嬉しそうな笑みを浮かべて上着を羽織ながら木の扉の前に立つ。
誰が来るのかとわくわくしている姿は幼い子供のよう。
しばしの後、扉は外からノックされた。
「はい、どうぞ」
言いながら、少女は扉が開けられるのを待つ。この扉は、外にしか鍵はないのだ。
きぃ。
僅かに蝶番が軋む。
「お久しぶりです。イントゥルヌス」
入ってきたのは布をかけた籠を持った長身の青年。二十代半ばと思われる青年は、瞳の色こそ違えど金色の髪や顔立ちが少女によく似ていた。
「本当に久しぶりね、レディス。会えて嬉しいわ」
イントゥルヌスと呼ばれた少女はぎゅっと彼の手を両手で握り締める。
「さあ、入って。沢山お話を聞かせてね」
「ええ。でもまずはこれを受け取っていただけませんか?」
手を引く少女へ、青年は籠を渡した。埃避けにかけられていたクロスの下には、赤やオレンジの大ぶりの果実が詰まっている。
「あら、素敵な贈り物ね」
「視察の土産だそうです。表向きは王子から、となっておりますが……"黒衣の理師"殿からです」
秘密ですよ、と青年は口の前に人差し指を立てて言った。
「そう、あの子が……」
一瞬驚愕の後、少女は心底嬉しいといった表情を浮かべ、大切に籠を抱える。
「……嬉しい」
その頬を一筋の光が流れ落ちた。
少女を愛おしそうに眺めていた青年はそっと彼女をテーブルセットへ導きながら、語りかける。
「ではイントゥルヌス。私の話を聞いていただけますか?」
籠を抱えたまま座り、涙を振り切って笑顔で見上げる少女は答えた。
「ええ、もちろんよ」
Fine.