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2010.5.28 【麻】
Novel stage / Fun Fiction:LοV
《夢の終焉》
「わたしの、のぞみ……」
ざくり。
ヒルダが答える前に、青年の体へ刺さる刃が増えた。屈服する様子がないと見てとった狂戦士達が突き刺したのだ。
「おい!」
「わたしは、だいじょうぶ、だよ」
どんなに赤い飛沫が飛んでも、不気味なほどに彼の表情は笑みのままだった。柳眉を逆立てた彼女の方が動揺しているくらいだ。
「いたくない。でも、もう、ねむいから、きかせて?」
足元の血溜まりはもう彼女の元へ届きそうなほど広がっている。
「……わかった」
懸命に頭を持ち上げて、霞んでいく目の前の紅い瞳へヒルダは告げた。
「力を、貸せ、ルヴニール。突破する」
答えに狂戦士達が震えた。いや、世界そのものが揺らいだ。
空も大地も崩れ落ちそうな中で、騒ぐ狂戦士達の合間から声が聞こえる。
「ん。りょーかい、だよ」
笑みを形作った口の端が更に持ち上がった。
すると、青年の体が体に刺さっている長刀ごと次第に薄くなっていった。
狂戦士達の動揺が更に広がる。慌てて残る長刀で青年の頭部を貫こうとするが……もう遅い。
「がんばって、ね。ヒルデガルド」
紅く霞んだ輪郭は刃をすり抜け、紅く細い鎖を辿ってヒルダへと吸い込まれていった。さながら朱の剣のように見える青年の力は、ぱきん、と彼女を戒めていた太い鎖を砕く。
立ち上がるヒルダに傷は一つも残っていなかった。落としてしまった長刀もきちんと一対揃っている。
歪んでいく世界の中、慌てふためく狂戦士達へ彼女は刃を向けた。その意志は戦い始めた時以上に、強い。
咆哮や声にならない叫び声しか上げていなかった狂戦士が初めて口を開く。
ド ウ シ テ
「何が言いたい」
先程とはうってかわって動揺する狂戦士達をなぎ倒していくヒルダ。戦士達の唇は全て同じ形に動いていた。
タ ス ケ ナ イ
歪ながらまるで泣いている女性のような声が倒れ行く者達から聞こえてくる。
何人もの形を見たところで言葉を読み取ったヒルダは鼻で笑う。
「あれは本物ではない。あの程度で負ける者が本物であるわけがない」
飛び散る血が、切り裂かれた衣が、歪んだ世界と共に消えていく。
「それに……私は、生き残りたいからな」
自身の力を奮い立たせるウォークライを上げ、彼女は周囲に存在するものを全て刈り取っていった。
イ キ ル
呟くように、思い出すように、狂戦士達の唇が動く。
彼女は長刀と共に言葉を叩きつける。彼女にしては珍しく饒舌に語っていた。
「死者の分まで生きるのが生者の務めらしい」
最後の一人の頭部を長刀が薙ぎ払う。
「私はもう狂戦士ではない。死が目の前にあるのなら、それを乗り切る」
ヒルデガルドの名を与えられたバーサーカーは崩壊する世界の中で静かに目を閉じた。
目を開くと、木で組まれた天井が見えた。
すぅ、と大きく吸った息が酷く新鮮なものに感じられる。
「まだ横になっていらしてください。ご気分の方はいかがです?」
側に座っていた褐色の肌の少女が水を勧めてきた。
「まだ、少し体が重いな」
やけに乾いた喉へ水を流し込む。少量の水ではあったが、体に染み渡っていく感覚を彼女は感じていた。
「当然といえば当然ですけれど。でもお目覚めになられて何よりですわ」
シャーマンの少女は再び水を差し出しながら不思議なことを言う。
「当然、とは?」
「ええ。少々麻薬を使わせていただきましたの」
尋ねたヒルダへ少女はあっさりととんでもないことを言う。
「……何?」
「悪夢に惑う時間を延ばすくらいなら、暗示をかけて無理矢理起こせないかとルヴニールがおっしゃいまして」
量は調節したので影響は残らない、と彼女が言う前に。
「ちょ、いたいいたいいたいっ!?」
眠っていたルヴニールが怒れるヒルダによって強制的に叩き起こされていた。
To be continued...