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2010.5.21 【東】
Novel stage / original:Two Little Stars
《やみのかたり》
夏らしい陽気が漂うようになった日。
博は真面目に本業の物書きとしての仕事をしていた。軽やかなパソコンのキーを叩く音が連続して響いてる。
ネコの仔達は昼食を食べた後、先日美優が持ってきたボードゲームで遊んでいる。
この家に来て数ヶ月。双子も大分落ち着いて、博と同じ建物の中にさえいれば寂しがらないようになった。
それだけステラとアンテールにとって、この場所が「家」として認識されてきたということだろう。
微かに聞こえるにゃあにゃあと楽しそうな声に時折耳を澄ませながら、青年は普段よりも調子良く文字を連ねていった。
それから数時間。
「飼い主ーもう夕方にゃ」
「暗くなってきたにゃ」
なかなか部屋から出てこない青年をネコの仔達が引っ張り出しにきた。何しろ放っておいては飢えてしまう。
「あ、ああ。もうこんな時間か」
声をかけられて初めて青年は外を見やる。窓から射し込む光は茜色だ。
「悪いな。先に食堂へ行っててくれ」
パソコンをスリープモードへ切り替えると彼は椅子から立ち上がった。軽く背を反らして伸びる。
「いやにゃ。ヒロシと一緒に行くにゃ」
「そうにゃ。変わんないから一緒にゃ」
腕を降ろした途端、右腕にステラ、左腕にアンテールがしがみつく。
「ったく。わかったよ」
二人をぶら下げながら歩くと、きゃあきゃあ騒ぐ。ほぼ肩にしがみついているのでそれほど重くはない。
「そういえば飼い主。これ、ネコ達の仲間にゃ?」
言いながらステラが差し出したのは、猫耳がついた女の子が描かれたカード。隅にハートのAとあるのでトランプだろう。
青年が受け取って裏面を見てみると、妖怪トランプというおどろおどろしい文字でロゴが入っていた。
「ああ、猫娘か」
「やっぱりネコにゃ?」
興味津々といった表情でアンテールが見上げる。
「まあ、猫っちゃ猫だな。でも人の手によって作り出されたものじゃない」
話しているうちに食堂へついたのでネコの仔たちを食卓の椅子につかせる。時間がない為、とにかくおかずをレンジに放り込んで暖め始める。
それでもきらきらと好奇心に輝く二対の瞳へ博は言葉を続けた。
「恐怖とかよくわからないものに名前をつけたのがそれ、妖怪ってやつだ。全国各地にいろんな話があるが、纏めた人がいるせいかなんとなく東北が多いってイメージがあるな」
「怖いもの、にゃ?」
ステラとアンテールが顔を見合わせる。尻尾がくるんと丸くなっていた。
もっとも、食事の支度で台所を忙しなく動いている青年は気付かない。
「例えばいきなり背後から水がかかったら驚く。けれど背後には何もいない。そんな時、水の中に何かがいる、と考えたりするのさ」
「み、水かけられるにゃ!?」
「いやにゃ怖いにゃっ!?」
例え話として軽く言ったはずの博は振り返って驚いた。あの双子が椅子の下で完全に尻尾を巻いて震えている。
「あのな。あくまで例えだ、ぞ」
青年が近付くと双子は博にしがみついた。ぎゅっと握り締めた小さな手は予想外に力強い。
「怖いのは嫌にゃっ!」
「もう嫌にゃっ。怖いのは嫌にゃっ!」
「落ち着け、お前等」
博は戸惑いながらもネコの仔達を受け止めた。震えてすらいる双子をおそるおそる撫でてやる。
沈黙が満ちる室内に、レンジの時間が経過した証の音が響く。
「ほら。ここには何もいないから、な」
「怖いのは嫌にゃ……」
「嫌なものは嫌にゃ……」
泣きそうなネコの仔達をどうにか宥めて博は食事の支度の続きにかかった。
(何故あんなに脅えるんだ……)
双子に疑問を覚えながら。
Fine.