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2010.5.11 【裏】
Novel stage / original:Feast of Dolls
《夜会》
太陽の光の守護が堕ちれば、大地は闇の眷属達の時間となる。
神話や都市伝説にその片鱗を語られる、異形の、異界の、異質の者達が真の姿を現す刻限。
深夜の真円の下を駆ける。駆ける。
二足でかける姿は人間より一回り大きく、衣服こそ身に着けているものの露出した首から腕は銀色の剛毛が覆う。
月に暴かれた影の頭部はまさに異形。鋭く光る銀色の瞳を持つ狼。
獣そのものの雄叫びを上げ、追跡者を威嚇する。
敵意むき出しの肉食獣の前へ、ふわりと降り立ったのは黒い外套を纏う少女。
年の頃は人間の十六歳ほど、金色の髪が緩く結われ外套と共に風が遊ぶ。碧色の瞳が柔らかい光を受けて優しく輝いた。
「こんばんは。闇を駆ける猛き一族の一員よ」
優雅に一礼する少女。その背後には赤い翼を持つ大狼が控えている。
人のシルエットを持つ狼は警戒心を、いや、殺意を露にして身長が自身の半分にも満たない子供を睨みつける。
その口から漏れるのは低い唸り声。
「そんなに怖い声を出さないでいただきたいわ」
少女の微笑みはどこまでも優しく、穏やかだった。そう、表情は。
「貴方を楽にして差し上げようと参りましたのに」
その手に握られているのは人狼の身長ほどもある白銀の鎌。重そうな様子はまったくといっていいほどない。
人狼が両腕を一振りする。爪が一気に一メートルほど伸び、空気を裂いた。少女の後ろに控える大狼も翼を大きく広げ臨戦態勢だ。
「狩猟対象、昼と夜の調和を乱す者を確認」
そっと突きつける鎌の先にあるのは鮮血に染まった人狼の剛毛。独特の臭気を放つ、命を支える物。
少女は柔らかな声のまま宣告する。
「死の呼び声を」
同時に人の姿をした狼は少女へと飛び掛った。
月の輝きに晒されればよくわかる。剛毛だけでなく、牙も爪も、赤黒い液体によって染まっていることが。
獲物を狩る狼の咆哮が闇の中へ徐々に広がり、唐突に止まった。
爪は確かに振り下ろされた。鋭い牙が生える口も確かに閉じられた。
しかし、人狼を染める赤は増えなかった。
少女は既に姿を消していたから。
地に降りた獣が獲物を見失った事に気付くより早く、待ち構えていた大狼が翼で打ち付けた。
人間の皮膚などよりはよほど硬い獣の表皮が何故か紙のように切り裂かれる。
苦痛を訴える人狼。空にも大地にも響き渡る咆哮が周囲を振るわせる。
その一瞬が。
止まる。
「お休みなさい。ごゆるりと」
光そのものの輝きが空間を切り取った。
周囲の振動が収まるころには、もう猛る獣の姿は消えていた。肉体も衣類も全てがその場から消失していた。
静寂が闇を支配する。
「狩りは終わったわ。帰りましょう、アス」
曇り一つない白銀の鎌を片手に、少女は再び空へと舞い上がる。
最初から最後まで、柔らかな、安らかな微笑みを湛えたままで。
驚喜と狂気が支配する裏の世界へ、ようこそ。
Fine.