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2010.4.15   【瓦】

Novel stage / original:Two Little Stars

《ふたほし》


 


 

 スターリィ・スカイ。
 宵闇が天の光と地上からの光に浸食され、帳を下ろせなくなって幾世紀。
 闇に惑うことなく、スーツ姿の青年が大通りを駐車場へと向かっていた。
 これから飲み会にいくであろうすれ違う人々とは違い、フランス製のカジュアルなスーツを着こなした姿。中身も背が高くシャープな顔立ち、とあれば女性が放って置かないのだろうが、眠たいのか疲れたのか、半分閉じられた瞼が非常にミスマッチである。
「思ったより捕まっちまったな……夕飯は何か買っていくか」
 青年は呟いて、一つ大きくため息をつく。重そうに足を引きずりながらゆっくりと歩いていると。
「にゃー」
「にゃあ」
 鳴き声が、聞こえた。
 青年は一瞬立ち止まる。その目線は左側の路地、コンビニのゴミ箱の方へ。何があるかは陰になって見えないが、明らかに音の発生源はそこだ。
「にゃー」
「にゃあ」
 まだ鳴き声は聞こえている。どこか心細げな声。
 青年がじっとゴミ箱の向こう側を見ると。ぴょこんぴょこんぴょこんぴょこん、と白い三角の猫の耳がのぞいた。
「……四つ?」
「にゃー」
「にゃあ」
 声が聞こえたのか耳より下が見えた。薄い茶色の髪と金色に光る一対の瞳を備えた頭が二つ。明らかに人間の子供の。
「にゃっ。気付いたにゃ」
「気付いたにゃ。ネコに気付いたにゃ」
 嬉しそうにはしゃぐ猫耳の子供達とは裏腹に、青年は呆れて額を押さえた。
「お前ら、いたずらするには時間が遅すぎる……」
 ゴミ箱を回り込んで捕まえようとした青年は言葉を失った。
 冷蔵庫が入っていたと思われる段ボールは上半分が切られ、底にベッドのシーツが敷かれている。猫耳の子供達はその中にいて、ゴミ箱に掴まって立っていた。
 子供達には猫の尻尾もついていて、その身に纏うのは白い大きめのTシャツ一枚だけ。ダンボールの側面には一枚の紙が貼り付けられていた。

【捨てネコです。可愛がってあげて下さい。】

「よりによってクローニングタイプの捨てネコかよ……!」
 数世紀前に狂人が創り出した、人と獣の遺伝子を混ぜた獣人種と呼ばれるクローンの一種。現在新規の製造は禁止されているが、交配による繁殖までは縛られていない為、高価ながら手に入らないわけではない。
 その結果、獣人種は金持ちの愛玩動物として飼われている事が多い。彼らには保護者が認めない限り人権も保障されない。ただの動物と同じなのだ。
 だが、獣人種は外見が違うだけでその知能や能力は人間と変わらない。
「お前ネコに気付いたにゃ」
「そうにゃ。お前ネコを拾うにゃ」
 子供達は青年の腕に一人ずつしがみつく。白い耳がぴこぴこと気忙しく動いている。
 喜んでいるのだ。
「……しゃあねぇな。引き取り手が見つかるまでだぞ」
 青年は戸惑いながらも、流石にこの子供達を捨てるということは出来なかった。権利としては動物の仔と同じとはいえ、外見上は獣耳と獣の尻尾を持った子供だ。
 なにより。
(こいつらにもう一回納得させるほうが面倒だ……)
「お前、ネコを拾ったにゃ! お前がネコの飼い主にゃ!」
「飼い主にゃ! ネコはお前の物にゃ!」
 彼の内心の声が聞こえることもなく、ネコの仔達ははしゃぎ出し、ぴょんぴょん飛び跳ねる。タイミングが違う為、青年の身体は大きく波打って揺れる。
「ちょ、こら、大人しくしろっ!?」
 青年が大きく腕を振り回すと、子供達は同時に地上へ尻餅をつく。きょとん、とするネコ達は顔を見合わせるとけらけら嬉しそうに笑い出した。
「ったく……おら、とりあえず帰るからな。来るならついて来い」
「うん! ネコは行くにゃ!」
「ネコも行くにゃ! お前が飼い主にゃ!」

 自動車で三十分。
 追加でネコの仔達の食糧も買い込んで、市街から離れて数十分かかる郊外にあるのが青年の家だ。
 石壁の塀に瓦葺の大きな古い家と庭。長く続く旧家の実家から、青年が引き継いだ唯一のものだった。
「広いにゃ! お前のうちは広いにゃ!」
「ネコが遊べるにゃ! いっぱい走れるにゃ!」
 車の後部座席から降りた途端、再びはしゃぎまわるネコの仔達。車の中でも最初は騒いでいたのだが、放り出すと青年に言われて大人しくしていたのだ。
「……そういや、お前らに名前はあるのか?」
 そろそろ子供達にも慣れて来た男は尋ねた。あの紙や段ボールには捨てネコとは書いてあったが名前についてはまったく書いてなかった。
「名前? ネコはネコにゃ!」
「そうにゃ! ネコはネコにゃ!」
 ネコ達の答えに質問者は頭を抱える。
「それじゃ別々に呼べねぇだろうが……んじゃ、そっちの髪の長いのがステラ、短い方がアンテール。わかったか?」
 ネコの仔達は同じ白くふわふわの三角耳と尻尾をしているが、片方の仔の髪は肩に届くかどうかくらいの長さ、もう片方の仔はショートカットだった。
「にゃ? ネコがステラにゃ?」
「ネコはアンテールにゃ! ネコはステラにゃね!」
「そうにゃ! ネコはステラで、ネコはアンテールにゃ!」
 子供達はお互いや自分を指差してつけられたばかりの名前を呼び合う。
 自分の方へ矛先がこなくなり、青年が落ち着いて食糧の入った買い物袋を玄関へ運び込んでいると、子供達が駆けて来る。
「にゃにゃ! ネコはステラにゃ! お前はなんていうにゃ?」
「ネコはアンテールにゃ! お前はなんていうにゃ?」
 再び左右の腕にしがみついて揺さ振る。だが、言われてみれば彼は子供達に名前を言っていない。
「そういや言ってなかったな。俺は博だ」
「お前はヒロシにゃ。よろしくにゃ!」
「ヒロシにゃね。よろしくにゃあ!」
 結局、二人の騒ぎに巻き込まれる青年。
 これが不思議な共同生活の始まりであった。


 Fine.


 

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