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2010.3.12 【刹】
Novel stage / Fun Fiction:Pop'n Music Zizz*Yuli
《長い時間の中で》
始まった時は覚えていない。だがいつからか人形遣いの幽霊と歌紡ぎの吸血鬼は真夜中のお茶会を楽しむようになった。
もちろん常に両方がいられるわけではないが、時間があるときはほとんど月を眺めながらたわいもない会話を交わす。
そして、今宵もまた、満月の月明かりの元でアールグレイの香りが漂う。
「今晩は。美しい方」
ふわり、と夜に溶け込む闇の外衣を纏う幽霊が吸血鬼の城へ宙空から降り立つと優雅に一礼する。
「お時間に遅れて申し訳ありません」
特に決まっているわけではないのだが、普段訪れる時間からは数分過ぎている。仮面に覆われていない顔の左半分の目が伏せられた。
先にテーブルセットへついていた吸血鬼はかまわない、と言う様に軽く首を振ると来客者に席を勧める。
ジズが腰を下ろしたのと同時に彼は呟いた。
「私達自身の時と比較すればほんの刹那に過ぎない」
長い足を組み、空を見上げる。
整った顔立ちに銀糸の髪、深紅の瞳というアルビノを髣髴とさせる姿は濃紺のコートを纏っていることもあって妖しい魅力を湛えている。まさに伝承にある闇の貴族と称された吸血鬼を体現した存在だ。
そして別の意味でも体現している。吸血鬼たる彼は、外見の齢は二十前後の青年だが実際の年齢は既に三世紀を越えていた。もっとも、その内の二百年は眠っていたが。
またその呟きに微笑む幽霊の青年も、二十代の外見で吸血鬼の青年と同等以上の時を経てきている。
確かに彼らが生きてきた時間に比べれば、数分など大した時間ではない。
「そうですね」
けれど、とティーポットを傾ける幽霊は続ける。
「例え刹那の時でも、貴方とお逢いできる時間が減るのは私にとって憂うべき事態です」
発言に、ユーリは言葉の主を見て可笑しそうな表情を浮かべる。
「本当にそう考えているのか」
「ええ」
間髪入れずにジズが頷く。すると。
「では」
ユーリの腕がそっとテーブルを越え、白い指先がカップを持つ手に触れる。
「お前が望めば、この時が永遠になるかもしれない、と言ったら」
にぃ、と唇が弧を描く。何者も抗えぬ妖しき闇がそこにあった。
幽霊の青年はもう存在しない心臓の鼓動が跳ね上がる音が聞こえた気がした。突然の事に思考がついていかず、困惑した表情となる。
固まり、動かなくなったジズを見て吸血鬼の青年は声を上げて笑い出した。腕を戻すと自らのティーカップを持ち上げる。
「ふふ……冗談だ。私もお前も、互いの拘束を望んではいまい」
そっと瞳が閉じられ、紅茶が流れていく。そうなって漸く、幽霊の青年は動揺から解放された。
「少々お戯れが過ぎますね」
魅了の残り香を打ち消すように彼は言った。
「偶には戯言があってもいいだろう」
カップを置くと再び深紅の瞳が真っ直ぐにジズを捕らえる。
硬直が解けても、完全に平常状態になったわけではない。人ならまだ脈打つ音が煩く感じられるだろう。
幽霊紳士はその高揚に乗じて、少しだけ意趣返しをした。
「では一つだけ訂正いたしましょう」
今度は立ち上がったジズがカップに添えられた手を取り、再び微笑みを浮かべてそっと口付ける。
「ユーリ、私は貴方に拘束されるのなら歓迎いたしますよ。貴方がそれほどまでに私へ執着してくださるのなら、ね」
一瞬驚きに目を見開いたユーリもまた、再び唇に笑みを乗せた。
「……考えておくとしよう」
Fine.