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2010.3.10   【猪】

Novel stage / Fun Fiction:QМА

《Piano Sonata No.2 Op.35 Last Movement》 Francis*Serious


 


 

 少年を器とした古の王が黒き蛇を全て放ち終えて笑う。
「何、活気に溢れた魂をそのまま消滅させるつもりなどない。私はこれから先もイモータルとして生き続ける。その為には生気と力が必要だ」
 言いながら、樹の幹の影に滑り込む。数瞬遅れてぱしゅっという紫色の光が着弾。命中した樹は膨れ上がった光と同色の網に包まれる。
 フランシスの指揮棒から放たれたものだ。
 彼は大量の黒蛇を仕留めるのは間に合わないと判断し、先に古の王をどうにかすることを優先した。
「まだ馴染まぬが新しい『私』も気に入った。あとは緑の都を再び……!」
 黒い筋が生じてからまだそれほど時間は経っていない為か、少年の肉体を扱うことは出来ても知識や技術は使えないらしく魔法を使ってこない。
 逆に言えば、まだ、取り戻せる。
「緑の都はもう時の流れに埋もれた。古の王、貴方にも眠ってもらう!」
 紫の光弾が連続で放たれるのを、少年は木々に紛れ込んで避ける。だがその言葉が癇に障ったのか、古の王は中央に緑玉のある正八面体の水晶を取り出して叫ぶ。
「緑の都は死なん。私がいる限り都は死なん!」
 元は澄んでいる水晶の中に黒い煙のようなものが揺らめき、腕ほども太い槍となって猪の様に突撃してくる。
 急な反撃を咄嗟に樹の幹で受けるフランシス。突き刺さった槍は直にまた煙となって水晶の中へと戻っていった。
 見た限り、先程の蛇は戻ってきていない。
「……蛇が生徒達のところに辿り着いたのか」
 隠れながら教師は唇を噛む。あれは生徒達から得た生気なのだろう。
 古の王はいまいましそうな表情を浮かべて樹の陰から出てくる。
「いつまでもそなたと相手をしている暇はない」
 黒い煙の増えた水晶を掲げ、古の王は一気に細い針を何十本も針を打ち出す。
「それは」
 フランシスは正面に来た針を光弾で打ち消し。
「こちらの台詞だ!」
 そして打ち出すのではなく指揮棒と繋がった蜘蛛の糸のような光を打ち出し、少年の身体を絡め取った。
「くっ!」
 その手から水晶が零れ落ち……ぱりん、と音がした。
「なんだと!?」
 古の王が驚愕する。水晶は落とした程度で割れるようなものではない。まして、あの黒い蛇を扱う媒体にしているようなものが強化されていないわけがない。
 だが、確かに正八面体の水晶は砕けていた。黒い煙が生じては大気中へ溶けていく。
「馬鹿な。この程度で壊れるはずが……」
 拘束されていることよりもそのことに驚いた赤く濁った瞳があるものを捉える。
 それは砕けた透明の中から転がり落ちた、緑玉。
 フランシスも緑玉に気付いた。そしてそこから感じる慣れ親しんだ魔力の気配も。
「セリオス、なのか」
 飲み込まれる直前、少年の紡いだ魔法円は発動しなかったわけではないのだ。抵抗を続けながら、意識の一部を切り離して封じていた。皮肉にも取り込みにかかった古の王の力を利用することで、それが可能になったのだ。
 そして純粋な水晶は、不純物が無理に混ざったことで脆くなっていた。
「こんな。こんな子供が、私を出し抜いた、だ、ぐっ」
 古の王が呆然としている間に、フランシスが少年の鳩尾を打って気絶させる。暫くは目を覚まさないように睡眠の魔法でより深い眠りへと誘った。
 使い手が眠りに落ちたせいか、黒い煙は砕けた水晶の元に集うと消えていく。僅かに音を響かせながら。
(どうして)(おうさま、どうして)
 高く消えていく水晶が王を失った悲しみの声と、送り出す葬送行進曲の音色を響かせていた。
 その中でフランシスは緑玉を拾い上げ、セリオスを抱える。
 まだ古の王がいなくなったわけではない。器の意識がなくなった為、少年の中で眠っているだけだ。
 そして悪霊化した王を倒すには、器であるセリオスが意識を取り戻して自らの中から追い出さなければならない。そうしなければ古の王が倒されれば、器も壊れてしまう。
「さあ。セリオス、起きなさい」
 抱えた少年の手に緑玉を持たせ、胸の上に置く。
 すると淡い光が玉から溢れ出してきた。じわじわと広がる薄く白い光は少年の身体を包む。
「……っ、う、っ……っ」
 魔法で駄目押ししていることもあり目覚めることはない。だが、みるみるうちに顔が苦悶の表情を浮かべ、両手が胸元を掻き毟る。
 その指が彼自身を傷つけないようにフランシスはやんわりと両手を拘束する。
「君にしか君自身は取り戻せない」
 難しいことを言っていると、教師もわかっていた。古の王と緑の都の民が抱えていた悲しみに抗い、自身の意識を取り戻すのは容易なことではない。
 それでも賭けるしかないのだ。
「ん、う……くあ……っ」
 二つの意識が体内でぶつかり合う苦痛に、少年の背が仰け反る。しっかりと抱えなおしフランシスは囁く。
「戻ってきてくれ……頼むから」
 まるで、祈るように。

 どれだけの時が経っただろう。微かに漏れる呻き声と身動ぎが続いていた。
 抵抗が激しくなってきているのか、苦痛の色はより強く出ている。
「ぐ……う、あっ!」
 大きく少年の身体がはねあがり、ぱたん、と落ちた。
「セリオス……セリオス、大丈夫か」
 力なく横たわる身体から、半透明の正八面体の水晶が溶け出してくる。それがふわりと浮き上がると、森の上まで飛んでいく。
『わたし、は……いもー、たる』
 水晶から聞こえてきたのは、中年の男性の声。
『みやこ、は、わた、し、が』
 そこまで言ったところで、水晶は砕け散る。フランシスの振り上げた指揮棒から生じた雷によって。
「これで、終わりだ」


 Fine.


 

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