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2010.3.11 【社】
Novel stage / original:Abyss of Time ~ After the Nightmare ~
《願い事》
研究所『久遠の薔薇』から少し離れたところにある神社。
祭りが始まって、出店が立ち並ぶ鳥居の外側に和は立っている。僕達が声をかけると彼は軽く手を上げた。
「和、お待たせー」
「すまない。髪に少し手間取ってしまった」
「いえ」
和はいつも通りのスーツ。僕と紫さんはお揃いで水色に朝顔の浴衣を着て、更に紫さんは長い髪をセットして簪を飾っている。研究に時間を取られた為、美容師さんにわざわざ来てもらった力作だ。
「その……お似合いです」
和は灯のせいか照れのせいかわからないけれど、顔を赤くして言う。
「そう言ってもらえると嬉しい。ありがとう」
紫さんは平然と微笑む。僕は和が紫さんに向ける感情を知ってるのでにやにやと見守っている。
それに気付いたのか気付いていないのか、和はこほん、と咳払いをして僕達を促した。
「では行きましょうか」
「ああ。縁日なんて久しぶりだ」
紫さんは懐かしそうに辺りを見回した。
僕は二人の前に行ったり、後ろに行ったりしながら夜店を見る。
「僕は初めて、だよね」
「ああ。そうなる」
振り返って尋ねると紫さんが頷いた。ついでに。
「飴買っていい?」
「お参りしてからにしろ」
ちょろちょろ動き回っているのがうっとおしかったのか、和が僕の襟首を捕まえて引きずっていく。
ばたばたしていると今度は腕を引っ張られる。その様子を、紫さんが楽しそうに見ていた。
紫さんと和に教えてもらいながら手水場のお清めも終わらせて、僕はお賽銭箱の前に下がっている綱を揺らした。
からんからん、と鈴の音がする。
「それから二回頭を下げて、二回手を叩く。最後にもう一回頭を下げて終わりだ」
「はーい」
ぺこ。ぺこ。
ぱん。ぱん。
ぺこん。
僕は教えられた通りにお参りをする。願いをこめて。
横を見ると、二人は既にお参りを終えておみくじを引いていた。もちろん紫さんだけ。
「お参り、終わったよっ」
「おかえり。ふむ、小吉か」
小走りに近付いていくと、紫さんが手に持ったおみくじを見せてくれる。
二人で運勢を追う。
「あ、恋愛運はいいよ」
「恋愛よりは研究に関係しそうな学問とかが高いほうが嬉しいな」
他にも何が高い、気をつけなくてはならない、などと話しながらちらっと和を見る。恋愛に興味がない、と言っていた所で気落ちしたような表情を見せたのを僕は見逃さなかった。
まったく気付いていない紫さんはおみくじを結びながら僕に尋ねた。
「そういえば、菘は何を祈ったんだ?」
「ん、やっぱり世界が平和になりますよーに」
僕は笑ってそう答えた。目的でもあるけれど、祈りたくもなる。
「そうか」
紫さんも微笑むと、和と僕の間に入って両方の手を取り引っ張った。
「じゃあ、いい子の菘にはりんごあめを買ってあげよう!」
引っ張っていった方向は参道。夜店が立ち並ぶ道だ。
「わーい。もちろん紫さんと和もだよ?」
「無論だ!」
「いや、俺は……」
躊躇う和を紫さんが引っ張る。僕も、引っ張られるというより引っ張るくらいの勢いで走っていった。
実は、僕はもう一つお願いした。
和と紫さんが上手く行きますように、ってね。
Fine.