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2010.3.7   【葬】

Novel stage / Fun Fiction:QМА

《Piano Sonata No.2 Op.35 First Movement》 Francis*Serious


 


 

 木々が風にそよぐ森――
 古代の伝承。かつて緑の都がこの地で栄えていたという。
 厳しくも人徳のある王。王と大地への感謝を忘れぬ民。
 しかし、現在、都は既に人の影もなく、木々だけが変わらず生き続けていた……。

「では、遠くに行き過ぎないように。解散だ」
 教師のフランシスの指示に従い、アカデミーの生徒達が散らばっていく。
 マジックアカデミーが地上に降りたことで一定の修練を積んだ生徒達へは課外授業が行われるようになり、これもその一つだった。
 ほとんどの生徒達は数人のグループを作りそれぞれ異なる方向へと歩いていくが、中には一人で歩き去っていくものもいる。
「ふふ。この閑静な森で自らの感性を研ぎ澄ましたまえ」
 集合場所の目印として手頃な倒木へ腰かけて、引率の教師は響き渡る鳥の声を聞き始めた。
 時折、戻ってきた生徒と話しながらも大体授業の半分ほどの時間が経過した頃。
 ばさばさばさばさっ、と鳥が一斉に飛び立つ音がした。
「な、何々!?」
「びっくりした~!」
「見てください! あちらの空が急に暗く!」
 休憩していた生徒達がざわめき、その中の一人が南西の空を指差す。
 晴れ渡り、一面を染める青と緑の狭間を橋渡しするように黒い切れ目のような筋が生じていた。
「何だか嫌な感じがする……」
「確かに不思議な現象だ」
 不安を訴える生徒達を落ち着かせるようにフランシスは立ち上がった。
「私が様子を見てこよう。君達はここで、戻ってきた皆にも動かないように伝えてくれ」
「はい。わかりました」
「先生、気をつけて!」
「君達も周囲への警戒を怠らないようにね」
 返事を確認すると彼は真っ直ぐに黒い筋へと向かう。
 闇から伝わる魔力の波動は狂気に満ち満ちている……。

 解散、の声に押され、セリオスは一人で森の中に入っていた。
 木や花、またそれらに集まる鳥や昆虫達。ひとつひとつを見ては名前や習性を記憶から反復し、疑問を感じたものはメモとして書き留めていく。
「なかなかいい予習復習になったな」
 メモをぱたん、と閉じる。
 改めて振り返れば集合地点からそれなりに離れている。もちろん太陽の傾き具合を考えれば時間までには余裕を持って戻れる範疇だ。
「戻るか」
 くるり、と振り返ろうとして気付く。
 ゆっくり流れる小川の向こう側に、空洞が見えた。
「……なんだ」
 草を掻き分けて、川の淵まで出ると様子がはっきりとわかる。
 細い流れではあるが水に押し続けられた結果、大きな石が動いて洞窟への入口を露にしていたのだ。
 その場で見ている限りでは洞窟の先は見えず、どこかに続いているようだ。
 まだ時間はある。
「見ていくか。何かがあるかもしれない」
 セリオスは細い流れを跨いで口を開ける洞窟へと足を踏み入れた。外気より少し低い、ひんやりとした空気が青年の身体を包む。
 彼が一言二言呟くと、ふわり、と浮かぶ小さな光を放つ球体が現れた。
 灯が先行して岩肌を照らす。
 歩いていくと洞窟の先は僅かに下へ傾斜していて、まだ行き止まりになる気配はなかった。
 更に進んでいくと変化が現れた。
 傾斜が下りなのは変わらない。しかしそれまで自然のままだった足元が階段状に刻まれているのだ。
「荒いが、人工物であることは確か、か」
 青年は足元や壁をチェックしてそう呟く。足場が階段状になっているのと同じくして、壁もまたある程度均されていた為だ。
「ならば、あの入口の岩も人為的な物か……」
 言いながら、彼はまだ歩を進めていった。
 すると、急に傾斜が止まる。
 光がふよふよと真横に飛ぶと装飾の施された青年の腰位の高さの石柱が一つあり、先は行き止まりになっている。
 そして、石柱の上には正八面体の水晶が浮いている。不思議なことに、どう見ても魔法の力が働いているはずの水晶からはまったく何も感じられなかった。
「水晶、か」
 セリオスは警戒しながら近付くと、まず石柱に触れる。先程までの荒々しい削り方に比べ、非常に緻密で丁寧に彫り込まれている。
「かなりの腕を持った職人だな。今でもここまで細密な飾り彫りはそうはない」
 飾りは森の中で生きる動物や人々を描いたもので、的確に日常の一部分を抜き出している。
 白い指先が彫刻と辿っていくと、水晶の前に当る部分を過ぎた時にセリオスは違和感を覚えた。
 見た目はただの飾り。だが指で辿った感覚は。
「これは……文字か」
 ここに来る前、目を通した文献にあった緑の都の文字。使い慣れない言語ながら、何度も指でなぞりつつ記憶から引っ張り出す。
「われ……このち……ねむり……めざめんと、す……」
 懸命に単語を思い出し、文章を繋いでいく青年は気付かなかった。
 単語が紡がれる度に、水晶が煙を吹き込まれたように内側から黒く染まっていくのを。
 そして。
「わが、なは…………イモー、タル」
 セリオスが最後の単語を口にした瞬間、水晶の中に閉じ込められていた黒い煙が一気に噴出した。
「なっ!?」
 狭い上に下ってきた洞窟。ねっとりと重く粘つく感覚さえ覚える黒い煙から逃げる術はなく、青年も彼の生み出した光も闇に飲み込まれる。
「く、このっ。僕としたことが……っ!」
 薄れ行く意識の中、セリオスは酷いノイズのかかったレコードから流れるような曲を聞いていた。
 暗くも決して遅い曲ではない。
(……葬送……行進曲……)


 To be continued...


 

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