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2010.3.4 【牛】
Novel stage / original:Willwart
《牧場》
今日もパールはブラックスター家へと遊びに来ていた。
と言っても、ギルフォードは現在留守にしていた。一度自分の興味が向くと気が済むまで調べてしまうのが黒羽の青年の癖、なので少女の方も慣れている。
ぱたぱたと飛び回りながら壁を埋め尽くす本を取り出し、ぱらぱらめくって、しまう。
それを幾度か繰り返した後に、彼女は一冊の本を持って在宅中のこの家のもう一人の住人、フォレスターのもとへと飛んで行った。
「レスターおにいさんっ」
「ん、何かな?」
本を読んでいたフォレスターは声にすぐ顔を上げた。何にでも好奇心を示す少女はこの男性にとってもお気に入りなのだ。
「これはなぁに?」
彼女が机の上に開いたのはハードカバーの大きなサイズの画集。
そこには、かつて地上で旅をしていたという揚羽蝶の翅を持ったウィルワートの住人が各地の様子をしたためたスケッチが鮮やかに描かれていた。そして開かれたページにあるのは青空の下、草原でのんびりと草を食む動物を木の柵越しに写したもの。
なるほど、とフォレスターは一つ頷いてパールへと説明する。
「ああ、これは牧場だね。草を食べているのは牛だ」
「ぼくじょう?」
小さな頭が少し横に振れる。緩やかなカーブをえがく金髪が揺れた。
「そう。地上の人々はこうして牛を飼い、牛から分けてもらったミルクをそのままだったり、加工したりして売って暮らしているのだよ」
「きからはとれないの?」
ウィルワートに住む者達の食糧は主に木の実から得られる。少女が言う天空都市でいうミルクもまた木の実から取れるのだ。
「あの木は雲の上でしか育たないのだよ。地上とここのミルクも見た目は似ているが、成分はここの方が若干栄養価が高いね」
フォレスターはそう言って画集を閉じた。
「ふぅん……でも、ちじょうではこんなきれいなこうけいがみれるの」
けれど、少女の心はすっかり地上に止まってしまったらしい。
男性は苦笑しながら語りかける。
「地上は美しく、けれど儚い。我々の刹那に、目まぐるしく変わっていくものだ」
「だからせいいっぱいいきているの? おはなみたい」
「そうだね。まさしくその通りだ」
パールの問いを肯定し、画集を渡す。
「そして儚い物に生命とは惹きつけられるものだ。パール、いい子だから地上へ行ってはいけないよ」
「はぁい!」
少女は元気に頷くと画集を元の棚へ戻す為に飛び立っていく。
その後姿を見ながら、フォレスターは溜息を一つついた。
「さて、あれだけ好奇心の強いお嬢さんが行かないでいられるかな……」
Fine.