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2010.2.28   【河】

Novel stage / Fan Fiction:LοV

《運命とは流れ行く河の如く》


 


 

 詩が、聞こえる。


 運命とは流れ行く河の如く

 止まることなく 行く先知れず


 それは決して大きな声ではない。
 けれど、何故か聞かずにはいられない雰囲気を持った穏やかなテノールだった。
(優しいのに……悲しい……)


 意志という名の櫂を刺し

 他者という名の魚を捕らえ

 揺れる小舟に身を任せ

 僅かな選択のみ許される


 詩にのせて、暗殺者の少女の意識が段々覚醒してくる。
 前に目が覚めた時と変わらない宿の一室。流石に拘束は解かれていないが、身体は光ではなく毛布に包まれていた。
 彼女の見える範囲にいるのは小さくきぃきぃ鳴いているグレムリンと毛布を掛けて寝かしつけている、先ほどの歌い手と思われるルヴニール。
 青年は少女の瞼が開いたことに気付くと、にこにこと微笑む。
「おはよー。もう痛いところないかなー?」
 怪我は完全に治されているらしく痛みが走るところはないが、少女は沈黙を返事として選んだ。
 青年は特に気分を害することもなかったようで、そのまま彼女へ話しかける。
「一応あなたが寝てたのは一晩だよー。大分身体もよくなったと思うー」
 にこにこと笑みを浮かべたままの言葉はそこで一度切られた。
 少しの空白の後。
「何が言いたいの」
 少女の方が折れた。
 すると、青年は彼女を治していた時のように近くまで歩み寄ってしゃがむ。
「あなたがどうするのかを聞きたいー」
 暗殺者は一度目を伏せて、ふ、と自嘲的な笑みを浮かべる。
「……何も、浮かばない」
 殺せない標的。戻れない居場所。彼女の根幹は数日で手から零れて落ちていった。
 そして少女はそれ以外の生き方を知らない。けれど、死にたいとも考えられない。
 そう、さながら櫂をなくした小舟のように。
「じゃあ」
 青年はそんな彼女へ言う。
「何かが見つかるまで、一緒に来てくれないー?」
「どうして」
 目の前の笑みへ少女は噛み付くように問う。
「どうしてあなたはそう言い続けるの。私の技術など、あなたにとっては全て見切れる程度のものでしょう」
 青年は暗殺者の少女の攻撃を一度も食らったことはない。完全に読んでいるのだ。
 それはこの青年が暗殺者としての技術を持っているか、もしくは暗殺者を相手にすることに慣れているかのいずれかだ。
 どちらにしろ彼女という戦力を欲しがる理由が、少女にはわからなかった。
 その言葉を受けてルヴニールは少し困ったような顔をする。
「あなたの力はすごいんだよー。ただ、あなたがそれを本当に振るいたいと思ってないだけ」
「本当に?」
「人間の一番すごいのはね、感情によって自分のストッパーを外せること。心を殺した者では本当の力って出せないように出来てるんだー」
 よく出来てるよねー。青年はそう言って笑う。
 少女にはその笑みが泣いている様にも見えた。
 しかし、それはほんの一瞬。直に笑みしか見えなくなる。
「一応、あなたに気付かせちゃったからねー。あなたが本当の力を振るえる位までは手を貸すつもりだよー」
 青年の表情を見ながら、暗殺者の少女は再び問う。
「……その結果、私はまたあなたを狙うかもしれない」
「それならそれでー。むしろ頑張れーって言っちゃうよ私ー」
 あくまで青年の態度は変わらない。何かを知っているかの様にも思えるほどに。
 そして、暗殺者の少女は口を開いた。
「……いいでしょう。どちらにしろあなたは私の顔を知っています。私の顔を見たからにはあなたの取れる選択肢は二つ。雇い主となるか標的となるか」
 橙色の瞳に、漸く意志の色が見える。年頃に相応しい光が。
「いいよ。雇い主とはちょっと違うかなー。まあ契約だから雇い主とも言えるねー」
 ルヴニールは暗殺者の少女の反応におどけて笑う。
「だとすると私はお代を払わなきゃいけないねぇ」
 何がいいかなーと青年が悩んでいると、少女が自ら提示する。
「では、私に名前をください」
「……いいよー」
 少し戸惑った後、ルヴニールは少女を戒めるロープを解き、改めて向かい合って座ると告げる。
「私からの対価。あなたの名はフィーギーナ……私はフィーって呼ぼうかな」
「フィーギーナ……わかりました。マスター」
「私はルヴニール。名前でいいよー」
 強い意志を持って首を横に振る少女に、青年は苦笑しながら契約を交わす。


 To be continued...


 

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