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2010.2.25 【首】
Novel stage / Fan Fiction:LοV
《暗殺者の夜》
意識を浮上させたルヴニールは、嫌なことが引っかかって後へ引かないよう心に納得させていた、といつも通りの笑みを浮かべていった。
処理が追いつかないと言う意味ではオークオラクルの推測も強ち間違いではなく、この場でそれ以上つっこむものもいなかった。
「えっと、それで、どうするか決めてたりするのかなー」
「私たちはお前と違って寝ていたわけではないからな。とはいえあまり有効打もない」
まずは迷宮の敵対策。使い魔を増やす、という案に関してはロードがまずうなった。
「んー契約しても相手の意識は私が支配してるわけじゃないんだよねー。現に皆は私に操られることはないでしょ」
宿の外、青年が昨夜立っていたあたりで軽いストレッチをしながら言う。
「だから、こっちに引き入れないとどっちにしろ駄目ってことー。敵対者が不死になられると困るしー」
「なるほどな」
答えたのはヒルダ。彼女もまた体をほぐすように軽く体を捻る。
「そうなると人数による戦力増強は難しいか」
「多分、ねー……」
苦笑しながら青年は言葉を濁す。何しろ、ロードとしての力は契約方法くらいしか知らないのだ。ひょっとしたら他のロードには出来るのかもしれない。
「では確実に出来る方からいくとしよう」
言いながら、彼女は一対の愛刀の代わりに同じくらいの長さの木の枝を構えた。
「お手柔らかにー」
いまだに苦笑いの青年も木の枝、というより棒を右手に持った。ヒルダが持つのが細くしなやかな枝なのに対し、彼が持つのは太めのしっかりしたものだ。
もう一つの戦力増強案として上がったのがロードことルヴニールの強化。
錫杖によるヒット&アウェイという珍しい戦い方をする彼は、攻撃をある程度回避出来る代わりに食らった際の耐久力に難がある。
彼を殺されれば負けが確定してしまう以上、そう簡単に倒れてもらっては困るのだ。
「……ふっ!」
かけ声も何もなく、鋭く吐き出された息と同時に女性は間合いを詰めてくる。
僅かな距離はあっと言う間に零。一気に空間を薙ぎ払う彼女の持つ枝を青年はバックステップで避け、続く二の太刀を棒で受け止める。
しかし。
「甘いっ!」
「わ、わわわっ!?」
細い枝に棒が押し負けている。枝が折れないぎりぎりの力を込めているのだ。
単純な膂力勝負では一対の大長刀を自在に操るバーサーカーと片手で扱う武器を用いる軽戦士スタイルの青年とでは勝ち目は見えている。
ふらついた脇に一撃。ぴしっ、と枝がいい音を立てた。
「一撃目」
ヒルダが宣言するのと同時にルヴニールは一度間合いを離す。即座に詰められるがその攻撃は跳んで回避し素早く反撃。
暫く攻防戦が続くこと数時間……空が茜色から藍色へと変わる時。
「五撃目。これで終わりだ」
ぺしん、とへたり込んだ青年の首元にしなった枝が落ちた。ヒルダも流石に多少汗をかいているが、それ以上にへたり込んでいる方は息も絶え絶えな状態だった。
「ふえぇ……」
「この程度でへばるな。思っていたより体力ないな」
「そんなこと、言われたってー」
使っていた木の枝を纏めてヒルダは呆れたように青年を見た。基礎体力はあるようだがあくまでそれなりでしかない。
「暫くはお前を鍛える。明日もやるからな」
「はーいー……」
ぱたぱたと手を振ったルヴニールに送り出されるように、彼女は宿の中へと戻った。
直後。
青年の背後から駆け込んできた黒い人影。その両腕には昨日と同じ湾曲した刃が翳されている。
勢いは止まることなく、白刃が宵闇に変わりゆく時の中で座り込んでいる青年の首へ。
……届く前に、止まった。
「……か、は……っ」
「ああ、やっぱり治療しきってなかったねー」
二刀をぬって人影の胸元に叩き込まれたのはルヴニールがまだ持っていた棒。昨日、彼が折った肋骨へと的確に刺さったのだ。よく見れば肘を折られた左腕も無理矢理刃をくくりつけている状態だ。
「ずっと、見てたでしょう。ごめんねー。気付いてた」
「……の……」
疲れてろくに動けなくとも手に持っている棒を突き出すことくらいなら出来る。それに対する対処を怠ったことを暗殺者は悔やんだが、どうしようもない。
そして完全に暗くなりきれていない今では、青年にも暗殺者の姿が見えている。
黒いポニーテールが根元で二つに分かれ、橙色の瞳が殺意に輝く少女。濃い紫色の短く動きやすい服装は上半身と腕を完全に覆い、脚は根元から素肌を見せていて足首から土踏まずの辺りに申し訳程度に布が巻かれている。
「ねぇ。君、私達と来ないー?」
「……ふざ、け、るな……っ!」
痛みを堪えて少女は更に刃を青年へ近付ける。あともう少し伸ばせば、その喉を切りつけられる。
しかし、ルヴニールは笑みを浮かべて言う。
「だって、君は私を殺せないよー……」
紅蓮の瞳を、輝かせて。
「ロードはロードにしか殺せないから」
「な……っ」
間近で深紅に煌くアルカナの輝きを見た少女は一瞬動きを止める。そこへ青年は畳み掛けた。
「かといって、戻ったら殺されちゃうでしょ。だから、一緒に行かないー?」
何もかもを知ったかのようなその言葉。
暗殺者は隠すことなく殺気を溢れさせた。
「お前に……何、がっ!」
少女の刃は浅く青年の首を掠める。一筋、紅い線が走った。
だが、それ以上打ち込まれることはなかった。暗殺者は背後に現れた黒翼の男性が素手で気絶させられたためである。
「あらら、寝ちゃった」
『……このような状況なら呼べ』
とぼけたように言うルヴニールへも一発入ったらしいが、それは別の話。
改めて、夜が来る。
To be continued...