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2010.2.23 【制】
Novel stage / Fan Fiction:LοV
《制すこと 封じること》
野営を行うこと数日。彼らは聖ザフーに近い中規模の街へと留まることにした。
神聖王国のロードが倒されたことは静かに広がってきているが、国の有り様は変わらない。信者は日々唯一絶対の神へ祈りを捧げ、修行を続けている。
あえて言うならば外部の者への警戒が強まっている所くらいだが、元々聖ザフー山は彼らの聖地とでも言うべき場所、警戒は他の所よりも厳重だ。
皮肉なことに、現在自我薄弱に陥っているルヴニールの様子を見せれば友人を治すためという言い分は通った。
ここまでの行程でオークの司祭は青年の状態に大体の見当をつけていた。
「恐らくは内的要因に依存したものじゃろう。一時的に処理しきれぬ情報を整理する時間を欲しているだけじゃ」
バジャの迷宮での戦いは、青年にとって何かを引き出すきっかけとなった。今は内外から与えられた情報を処理することに精神が集中していて他が疎かになっているのではないか、というのが司祭の説だ。
「じゃとすれば、時が解決してくれよう。儂らは迷宮攻略の手だてでも考えようかの」
そう結論付けた。
実際、薄皮を剥ぐように彼の自我は戻ってはきている。ただしゆらぎが大きく、日中は少し大人しすぎる人位にまで回復したが、日が落ちる、特に夕方は外側からの刺激をほとんど受け付けない。
「私たちでは何もお手伝い出来ませんのね」
「手間のかかる奴だ。よく今まで生き残っていたな」
シャーマンの少女が残念そうに言い、ヒルダがやれやれと視線を青年へ向けた。
尤も強く指示すればその通りに行動するし、身を守ることは優先しているのか、殺気には敏感で遭遇した魔獣などとの戦いには錫杖を使って参戦している。反応も申し分ない。
話題の当人は少し前、糸が切れるように眠った。
(鍵は焔、か……)
一番最初に異変を見つけたカイムはおぼろげに気付いていた。戦闘で追いつめられた要因である炎。夕方に回復が遅れるのは夕陽で全てが朱に染まるから。
「さて、二度目の不意打ちは効果が薄いことぐらいは向こうも知っておるじゃろう」
「総力戦になるとするとやはりもう少し数が欲しいところだな……その辺の魔獣をルヴニールが使い魔に出来ないだろうか」
「脆い方ですから守りを強化して差し上げないと厳しくありませんか」
それぞれが意見を出し、言葉を発せられない男性も時折ジェスチャーで意志を示す。普段であればルヴニールが代弁するのだが、彼はそれが出来る状況ではない。
「瞬間的な攻撃力が欲しいな。特に再生してくるのを排除出来るのが」
「確かにあると便利じゃのぅ」
「赤い羽根の鳥さんがいらっしゃらなければ、私が炎から守って差し上げられますのに」
対策についての話し合いは続く……。
断罪の天使は困っていた。
眠りについたわけではないのに、彼女の前には青年が膝を抱えてしゃがんでいる。
「……どうか、したの?」
来た理由も元気がなさそうな理由もわからないがとにかく天使は彼に声をかけてみた。
「ん、んー……なんか頭がぐちゃぐちゃになっちゃって」
返ってくる声は妙に弱弱しい、というより、戸惑っているように聞こえる。
彼自身にもわからないことが人間の感情に疎い天使にわかるわけがない。それでも彼女は言葉を続けてみた。
「よくわからないけれど、物理的にも精神的にもあなたがどうにかなったらこの状態はありえません」
「それはそうかもねー……でも不思議なんだー」
抱えた膝に顔を埋めてルヴニールは呟く。
「知らない光景なのに、痛いんだ。何かはわからないけどすっごく痛い」
「どこか怪我をしているの?」
「ううん。多分そういうことじゃない……でも大丈夫」
パワーズの問いに青年は普段通りの笑みを浮かべる。
「今、事実と不思議な光景を完全に分けちゃうから。そしたら、あとは封じちゃえば制御できる」
こうして自我を落としているのは、今後焔によって手綱が取れない状態にならないよう制すための作業スペースの確保。
しかし、パワーズは彼に問う。
「それは、問題を先送りするだけではないの」
天使のことも知らない記憶も、封じるだけ封じて消すわけではない。もちろん本来分けることすら困難な記憶を簡単に消去することなどは出来ないのだが。
その問いに、青年は微笑む。
「だって、先送りでいいから」
意外な返事を貰った天使が目を丸くした。
「アルカナを集めるまでもてばそれでいいんだー。その後ならゆっくり思い出せるー」
(……本当に?)
笑ってばかりいるルヴニールに、パワーズは一抹の不安を感じた。
To be continued...