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2010.2.18 【森】
Novel stage / Fan Fiction:LοV
《聖堂都市の森》
紅色の断頭台にかかり首と胴体が離れた途端、断罪の天使・パワーズは四肢や翼の先といった末端から灰とも塵ともつかない断片となって消えていった。
彼女の唇が最後まで綴った言葉は、人を導かなければ。
その言葉さえ途絶えると、天使の頭部は紅い輝きへと変わっていった。
アルカナの輝き。
持ち主であった天使のまなざしのように冷たい輝石はきらり、と一瞬光を反射し、闇の力を打ち出した反動で浮き上がったルヴニールへと吸い込まれていく。
頭部へ絡みつくように纏わりついた赤い光が輝石を重ねて行き……ぱちん、と弾けて消える。
そして、彼は視た。
ザフー山の頂に聳える聖堂都市へ続く石畳の巡礼路。
千年以上かけて修道僧達が積み上げた石畳の巡礼路。
その上に折り重なる信者の森。
その上に折り重なる死者の森。
何れも祈った。神に救いを求めて。
何れも祈った。神に助けを求めて。
そして屍となった。
そして塵となった。
天使は見ていた。人間達が救済を求めながら死んでいくのを。
天使は見ていた。人間達が希望を失いながら死んでいくのを。
羽根を震わせながら。ただ。見ていた。
一度閉じられた瞼が開くと、その瞳の紅がより鮮やかな輝きを放っている。
浮き上がったままの青年の身体が漸く地に落ち、ぺたん、と力なく座り込む。
「ルヴニール」
ヒルダが力の抜けた様子へ声をかける。パワーズを殺したことへの罪悪感故のものだと考えて。
少しおいて。
「……大丈夫」
微かな声で返ってくる答え。
余りにも弱々しい言葉に彼女は苛立ちを隠せなかった。
「これから何度でも繰り返す。最初でそうへこたれていてどうする」
まったく表情を浮かべず、声の抑揚すら消した言葉が青年へ向けられる。
「うん……そう、だね」
僅かに頷いたのが見える。だが、どうしてもその姿は脆い。
必然とヒルダがぶつける言葉も戻らない。
「ならば、顔を上げて立ち上がれ。いつまでもここにはいられない」
「うん……うん。わかってる。大丈夫。大丈夫」
「……っ! そう答えればすむと!」
大丈夫と繰り返すだけの青年を無理矢理引っ張ろうとした女性はその手を止められた。止めたのは黒翼の男性。
「離せっ!」
カイムはヒルダに向かって首を横に振る。
そして拘束していた手を離し、ルヴニールに近付いた途端、青年の背から光で固められた翼が生まれた。
浮きかける身体。
青年の唇から漏れる言葉には続きがあったのだ。
「……っ。大丈夫。私は、私だから……っ!」
自らの両肩を両手で抱いて、彼は懸命に押さえ込んでいた。断罪の天使に引きずられそうになる心を。
急に起こった事態に驚く中、オークオラクルがその現象を見定める。
「パワーズと同じじゃ! アルカナが制御できなくなっておる!」
「ルヴニールっ! 自分をしっかりお持ちになって!」
シャーマンの少女が叫ぶ。
「大丈、夫……かなければ……私は、私……導かなけれ……」
だが、放たれる白い光は増すばかり。
「この馬鹿! とっとと手綱を取り戻せっ!」
続けてヒルダが怒鳴りつける。
『ルヴニール』
そしてこの場では青年にしか届かない声なき声が語りかける。
『反発するだけが方法ではない。取り込むのも一つの方法だ』
それは穏やかに諭す言葉。
そして、青年はある方法を取った。
「……少し、眠って、て……」
ばちんっ。
呟くのと同時に、背に羽ばたいていた白い翼が弾け飛んだ。
僅かに爪先が大地から離れていた身体は、最も近かったカイムに受け止められる。
「……うん。とりあえず、大丈夫ー」
ふらつきながらも自分の力で立ち上がった青年は、漸く微笑を見せた。
To be continued...