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2010.2.21   【朱】

Novel stage / Fan Fiction:LοV

《焔の朱》
 


 

 パワーズの示したルクサリアへの抜け道は神の導きか、数日の捜索で見つかった。
 国境のサガルマサ山脈の東端。巨大な岩と岩が重なり合う隙間に、地底へと続く穴が秘かに開かれていたのだ。
「ほぅ……わしも忘れかけたような言い伝えじゃったが、確かなようじゃの」
 目覚めてからルヴニールが話した天使の話は、オークの司祭にも聞き覚えがあった。ただ、それは半ば伝説にも近い言い伝えで現在では古文書に載っているくらいだという。
「でも、これで魔界王国へ行けますね」
「助言元が少々気にはなるがな……」
 シャーマンの少女は自身が見つけたこともあり、はしゃいで穴の中を覗いている。その後ろではヒルダが腑に落ちないような、いぶかしむような目線を送っていた。
「パワーズちゃんは嘘つかないよー。さ、行こっ」
 言い出した当人が真っ先に穴の中へと入ろうとするのを、カイムが制して先へ進んだ。ヒルダもまた青年を追い越して先に向かう。
 その後ろを憮然として青年が進むのと、シャーマンとオークオラクルがくすくす笑いながらついていった。

 山脈を抜ける道はかなり深く掘られているようで、崩れないように石壁で補強はされているものの幅はかなり狭い。
「誰が作ったんだろうねー」
 松明を掲げながらルヴニールが周囲を見回す。
「かつてシヴィラダは芸術の都じゃったからのぅ。変わり者の中にはこうして向かう者もいたかもしれんの」
「さ、流石にそれは苦しくないかなー」
「掘る練習にはなるかもしれませんわね」
 カイムとヒルダが黙々と周囲を警戒しつつ進んでいく後ろで、残りの三人は出来た経緯についての談義を始める。
 それほど大きな声ではないが、狭い空洞の中でその声は響く。
「お前ら……いい加減にしないと斬るぞ」
 暫く後、響きすらしない低音の声が諌め、三人ほど首をすくめる羽目になったが。
 最もそれが仕方がないと思えるほど、この地下通路は長かった。
 昼夜の感覚すら薄れる中、松明の朱だけが場の時間経過を知らせる。
 それでも進み続けるうちに、漸く先が見えてきた。登り坂、という。
「やっと、か」
「結構疲れるねぇ」
「やれやれ。年寄りにはこたえるわぃ」
 目標がおぼろげながら見えて来た所で多少気が抜けたのか、各々から溜息のような息が漏れる。
 そのまま歩を進めると、やがて行く手には光が見え始め……外が、見えた。

 出口はそのまま石壁に左右を囲まれた場所へとつながっていた。空からの光こそ見えるものの壁と同様の素材で覆われ、通路の先は幾重にも枝分かれし、曲がっている。
「……うわぁ。ここも不思議なところだねー」
「伝承の通りじゃの。『バジャの迷宮』じゃ」
 そう言いながら、青年が地上の遺跡へ足を踏み入れた途端。
「今だ!」
 聞き覚えのない声が頭上から響いたと同時に、天井の石が崩れ落ちる。
「くっ!」
「うわわっ!」
 その下にいたのはヒルダとルヴニール。落ちる石が二人の身体を打ちつけ、裂けた皮膚から赤が零れていく。
「上からですの!?」
 きっとひらけた天井を見据えて青年の後ろにいた少女が追撃を防ぐ為に雷を飛ばす。巻き込まれた二人が立ち上がる前に、ロードは自分にだけ聞こえる声を聞く。
『前からも来る』
 ルヴニールが咄嗟に前方を見ると、曲がり角から二体の使い魔が現れた。三つ首を持つ黒い魔犬と全身を炎で包む神鳥。
 それらは姿を見せるのとほぼ同時にその口から大量の炎が吹きつけられる。
 注意を促したカイムは……防御の体勢を整え、避けずにその場で炎を受けた。彼が避けてしまえば、後ろにいる手負いのヒルダやルヴニールが炎に晒されることになる。
「……っ。流石に無茶だよーっ!」
 ヒルダと共に通路の方へ下がりながら青年は叫んだ。彼らのような人間や獣は、他の種族よりも炎に弱いという種族的な弱点を持っている。
 この中ではもっとも戦闘能力の高いカイムにしても食らい続けるのは相当にきつい。現に、その身体は少しずつ焔の朱に蝕まれつつある。
「ルヴニールもっと下がってください!」
 シャーマンの少女が崩れた石の上に立ち、杖を掲げる。巫女の祈りが精霊の守護、焔から人間を守る力を引き出す。
「させない!」
「我を……きゃあっ!」
 だが、その力が発動する前に再び空中からの邪魔が入る。鷲の頭部を持つ輝く鳥がその脚に掴む円環を光らせると、少女の精霊への干渉を封じる。更に赤い翼が彼女を叩き、耐え切れずに膝を突いた。
 それでも怪我人が一時的に下がったことで、攻撃の合間にカイムが焔から離脱する。そして朱の残滓を纏いながらも、剣を三体の敵へ向かって薙いだ。
 黒く輝く剣が天から降り注ぎ、使い魔達を地へと叩きつける。
 更に下がっていたはずのヒルダが通路から駆け出し、間を詰めると一気に赤い翼の鳥へと切りつける。
「くそっ! でも今なら、皆っ!」
 かなりのダメージを受けたらしい鳥は一瞬にして空中へと舞い上がり、その隙に再び魔犬と神鳥が炎を吐き出す。
「ぐ、あっ!」
「きゃあああああっ!」
 今度はカイムだけでなく、ヒルダやシャーマンまでも巻き込む。
「このままじゃまず……っ」
「主は出てはいかん」
 下がっていたルヴニールが前に出るのをオークオラクルが止めた。
「このままではまずいからこそ主だけは生き残らねばならんのじゃ」
「……そうなんだけど、そうなんだけどー」
 ルヴニールと契約を結んでいる限り、ルヴニールが消滅しない限り彼らは完全に死ぬことはない。例えその身が灰燼と化しても、多少の時は必要とするが直にロードであるルヴニールの側で復活する。
 だからこそ、青年は生き延びなけなければならない。彼らを本当に死なせない為に。
 代わりとでも言うように司祭は炎の切れ目を縫って前へと出る。
 その眼前には痛めつけられた赤い鳥が鋭い爪と嘴で襲いかかってきていた。
「この先へは進ませないぞ!」
 爪に引き裂かれながら、オークの司祭は嘴を六角棒で受け止めて阻む。そして一瞬棒を引き、相手の体勢を崩してからその胴部へ一撃を加えた。
 更に奥の方でも朱に染まったカイムとヒルダがまず三つ首の魔犬へと集中攻撃、その首を剣や長刀が切り裂き、断面をシャーマンの雷が焼いた。
 だが残った一つの首と神鳥が同時に炎を放出、悲鳴すら残さずにシャーマンの少女を焼き尽くした。
「お嬢ちゃんっ!」
「動くでない!」
 振り返すことすらせずに、飛び出そうとした青年を司祭が一喝して制す。
 オークオラクルは赤い鳥から光を帯びる輪を弾き飛ばし、羽ばたき始めた翼を六角棒で叩く。
「このっ!」
 しかし容赦なく爪がオークの身体を抉る。どちらが先に根を上げるか、互角に思えた。
 けれど、その状況は直に崩れる。
 剣士達と司祭の間へと飛び込んだ神鳥が一声高い鳴き声をあげて羽ばたくと、舞い散る火の粉が光となって三体へと降り注ぐ。
 それは神鳥、フェニックスの持つ回復の力。再生の羽ばたき。
 欠けていた魔犬の首が一本再生し、赤い翼の鳥もまた司祭に与えられたダメージを回復する。
「しまった。これでは分が悪すぎる……っ!」
 目の前の切り落とした首が再び焔を放とうとするのを見てヒルダが呟く。まずは再生能力を持つ神鳥から倒すべきだったのだ。
 そして、彼女は覚悟を決めた。
「これでもまだ抗うかオークっ!」
 司祭もまた五分からひっくり返されたことを悟った。追い詰めたはずの赤い鳥の傷が完全とはいえないが癒えている。
 それでもオークオラクルは六角棒をふるった。
「ほっほっほ……まだまだじゃ!」
 爪と嘴、両方の攻撃を受けながらその勢いは止まらない。
 更に司祭の背後から闇の力が飛ばされ、二体の鳥へ少しずつダメージを与えている。
「ルヴニール、動くなといったじゃろう!」
「場所は動いてないよ。慣れないけど一応こういうのもあったのを思い出しただけー」
 シャーマンの様に錫杖から力を飛ばすやり方。収束は甘いがその分上手くばらけて複数への攻撃となっている。
「まったく……じっとしていられん主じゃ」
(じゃが、これは撤退するしかないのぅ)
 ちらり、と司祭が魔獣と戦う剣士達を見る。挙動で向こう側の意図を即座に汲み取る。
「ふむ。それならなんとかなるかの」
 そして、魔獣と神鳥が再び剣士達へ炎を吐き出した。
 同時にオークオラクルは渾身の力で赤い翼の鳥へ体当たり。共に炎の中へと突っ込む形になる。
「ちょ、ちょっと何やってるんだよー!?」
「へんっ!仲間の炎があた……がぁっ!」
 赤い鳥の言葉が途切れる。その背から抜けるのは黒い剣。
 二つの焔が収まった時、交差地点から自力で抜けてきたのは黒翼の男性だけだった。赤い翼の鳥はその場で倒れこみ、他の影は、ない。
 ここを守るものだからだろうか、瀕死ではあるが赤い翼の鳥はまだ生きていた。しかし直には動けるほどの余力はない。
 そしてヒルダが魔犬の攻撃を受け止めたことで片方分のダメージしか受けなかったカイムは、全身を焦がしつつも抜けた勢いのまま神鳥を越えて出てきた通路の中へと走った。途中で呆然としているルヴニールの腕を掴んで。
「く、くそ……っ」
 司令塔の役目を果たしていた赤い鳥が動けない為に魔獣と神鳥も動けず、二人はこの場からの離脱に成功したのだった。


 To be continued...


 

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