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2010.2.26 【予】
Novel stage / Fan Fiction:LοV
《説得と思われる何か》
少女は命じられていた。聖堂都市に災いをもたらした者を殺すように。
それが彼女、暗殺者ギルドに身を置く者の仕事。
暗殺者として育てられた意味。なのに。
「だって、君は私を殺せないよー。ロードはロードにしか殺せないから」
紅蓮の瞳の対象は優しく笑う。
彼女が知らされていないこと。ひょっとしたら単なる口から出任せかもしれない。
けれど、けれどもし。その言葉が真実だったら……。
(私は何を殺せばいいの)
宿屋の一室。
まどろみから醒めた少女は温かい光に包まれていた。
咄嗟に起き上がろうとするが手足はロープでしっかり縛り付けられていて、隠し武器を含めた武器が全て見えるが彼女の手の届かない所へ置いてある。
「あ、まだ動いちゃ駄目だよー」
側からした声は少女の暗殺対象。彼女を包んでいる光の発生源はこの青年のようだ。
「何を、する」
「何をって……怪我治してるー」
青年の、どうして睨みつけられているのかが判らないきょとんとした表情が彼女に返される。
尤も、直に微笑みに変わった。
「昨日の今日だから応急処置くらいしかしてないだろうなーって思ってたら、応急処置もろくにしてないんだねー。駄目だよー」
言われてから、彼女は起き上がろうとしたときに身体の痛みがほとんどないことに気付いた。
青年は人差し指をぴっと額に突きつける。まるで子供を叱るように。
「早めに治したほうが跡残らないし丈夫になってお徳なんだよー」
『……何か違う』
尋ねた暗殺者の少女の方が呆れてしまう程あまりに酷い論理。思わず青年の背後で警戒している男性が声なき声で突っ込んだ。
間違ってないよー、とルヴニールが唇を尖らす。
訳のわからないやりとりに惑いかけた少女は我に返ると再び青年を睨みつける。
「殺せ……殺しなさい!」
「やだ」
間髪入れずに返る否定の言葉。
「だって殺す理由ないもん」
「私は」
「あなたじゃ私を殺せないよー。例え私がロードでなくても」
言い募ろうとした言葉を遮ったのは意外な一言だった。
「なん、ですって」
笑みのまま告げられた事実に少女は言葉を失う。青年は笑みに苦いものを混ぜながら、更に続けた。
「あなたは迷ってる人だから。あなたを送った方だって、ロードはロードじゃなきゃ倒せないことぐらい知ってるんだろうから気付いてるんじゃないかなー」
青年の淡々と繋げていく言葉が、少女には遠く聞こえる。
暗殺者と育てられたのに、この男は彼女は暗殺者にはなれないという。
告げられていく事実が彼女に真実への道標となる。
暗殺者ギルドによって送り込まれた理由は、ロードの不死性の確認と役に立たない針の始末。
「でもね。迷うって良い事なんだよー」
悟ってしまった彼女なりの真実に衝撃を受けている所に、吹き込まれる別の言葉があった。
「いっぱい考えてみて。生きて、その答えを探してごらん」
その直後、彼女を睡魔が襲う……。
「まだ傷が治るまでかかりそうだから寝てて欲しいんだよねー」
『その香炉は』
「ん? シャーマンちゃんに借りたー」
眠りを導く薬草をくべた香炉を少女の頭側、少し離れたところにおいて青年は治療を続けた。再び柔らかな光が彼女を包み込む。
『そうか……見事に壊したな』
「酷いよねー。でもこのくらいしないと判ってもらえないと思うんだー」
もちろん眠気をもたらす効力は青年にも適用される。ふわぁ、とあくびをしながら彼は彼女の傷を治しきった。ただし落ちた体力までは補助できないため、そこは眠って補うしかない。
暗殺者の少女の身体を毛布で包んでやり、青年は彼女から離れて男性の側に座る。その程度の距離があれば香炉の影響を受けないのだ。
「出来れば一緒に来て欲しいんだよねー」
寝台に頭を預けてぽつり、とルヴニールが呟いた。
すると。
『その為の破壊だろう。今回の説得のような何かは』
全てをわかっている口調。青年の方も見ずに黒翼の男性は答えた。
「……ばれたー?」
『答えに淀んだのはそういうことなんだろう。全ては予定調和、か』
「えへへー。まあねー」
ぺろっと舌を出した青年はそのまま目を閉じる。ここに運び込んでから治療を続け、その前もヒルダに稽古をつけてもらっていたのだ。ずっと眠っていたとはいえ、あまりにも一気に消費しすぎた。
『まだ寝るな』
うとうとしかけるルヴニールにかけられたのは、少し厳しさを含んだ声。
「んー……なぁに?」
『昨日の今日、ということは昨日もあの少女と会っていたな』
「な、何のことかなー」
さりげない一言をしっかり聞きとめられ、ルヴニールはいつもの微笑みで思いっきりあらぬ方を向く。眠気はすっかり醒めたようだ。
To be continued...