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2010.2.13   【鹿】

Novel stage / Fan Fiction:LοV

《最初の矢印》


 


 

 未だ意識を取り戻さないルヴニールをテントの中にいたカイムへ押し付けると、ヒルダは彼女達の前にもっとも姿を現す一族の者、シャーマンの少女へ先程の出来事を話した。
 頷きながら聞き終えた少女は言った。
「それは、おそらくオークオラクルですね」
 オークという種族がいる。人間より一回り小さく、平均寿命も三十年ほど。知能はそれほど高くないが、その中でも主に司祭と呼ばれる知識を蓄えたオークが集団を率いて自身を守らせていることが多い。
「司祭の割には1体で出て来たが……」
「年月を経た司祭の中には隠居、とでも言えばいいのでしょうか。集団から離れて生きる者もいるらしいのです」
 敵対はしないと思いますが、と少女は微笑む。
 女性は複雑な表情を浮かべ、すぐに表情を引き締める。
「だが居場所を知られたらしい、というのはまずいな」
 少女も少し困った顔をした。
「そうですね。おそらく各地のロードも反応の数に戸惑ってはいると思いますが、放っておいてはくれないでしょう」
 彼女は衣装を軽く靡かせて、身軽に立ち上がる。
「お眠りのルヴさんには悪いですけれど、すぐにでもここを離れるべきですね。他の一族の者に話してきますわ」
「ああ。私はカイムに話しておこう」
 ヒルダも立ち上がると、自分達の天幕へ戻った。

 カイムは、倒れた、とだけ言われたルヴニールをまず横たえた。
 青年の汗は大分ひいていて、今は少々疲れて眠っているようにしか見えない。
 夜中に抜け出さなくなったら、今度はこの状態。男性は彼の頭の側へ腰掛けると、溜息を一つついた。
 行動を共にしてまだほんの数日しか経っていないというのに、一体どれだけの出来事が起こっただろう。
 この青年に関するものだけでもかなりの数だ。
「ん、んー……」
 そんな周囲の思惑を知ってか知らずか。ころん、と寝返りを打ったルヴニールが男性の手に触れる。
 その瞬間、カイムの意識はどこかに落ちていた。

 どこまでも続く闇の中。
 闇が見覚えがあるというのもおかしな話だが、男性にとっては二度目の感覚だった。
 ただし、前回より闇が濃く、またぼんやりとした気配のようなものをいくつか感じる。
「……ルヴニール」
「やっほぉ」
 漆黒から溶け出でる白い影。もちろん横で眠っていた、いや、おそらく現在も眠っている青年の姿だ。
 苦笑を浮かべて手をパタパタ振っている。
「えへ。ちょっと軽率だったみたいでね。思いっきり探されちゃってるよ私ー」
「……私は何も説明されていない」
 何かやらかしたらしいということはわかった為、カイムは呆れた口調で言う。青年はぽかん、と口を開ける。
「あ、あれ? ヒルダちゃんが話さなかった?」
「何も」
「そ、そっか、えっとねー……」
 纏まらないが全部を伝えるよう事情を話していく。
 その間もなにやら気配は動いているようで、時折二人は周囲に気を配る。
「……ということで、多分今探されてるみたいー」
「……そうか」
「ごめんねー……でもなんとなく、皆が戦う理由が一つじゃないことがわかったよー」
 困ったように笑うルヴニール。だがこの様子だと懲りることはないだろう。もっとも、どこかでこれが変わっててしまえばルヴニールはルヴニールではないと考える部分があるのも確かだ。
「多分急いで出発するよねー。目を覚ました方がいいんじゃないかなー」
 そう言うと、青年は軽くカイムを突き飛ばした。おはよう。そう声をかけながら。
 男性の姿がゆらり、と漆黒の闇の中へ消えていく。
「さて、私も起きないといけないんだけど……」
 呟きながら、白い影は後ろを振り返る。深い深い闇の中。像が結ばれかけるが、形は定まらない。
 なぜなら、青年がその姿を知らないから。
「あなたがお嬢さん、かな。今海上要塞へ向かっているっていう」
 ぼんやりとした人の影のようなものが頷いたように見える。
 その後口も何か動いているようなのだが、人影は話している言葉がわかるほど鮮明ではない。
「ごめんね。何言ってるかわかんないんだー」
 青年はいつも通りの微笑を浮かべて言う。先程の反応でこちらからの言葉は届いていることがわかったからだ。
「私はルヴニール……どこかで会おうね」
 歪んでいる人影が次第に近付いてくる。
 しかしその手と思しき部分が届く前に青年の姿は掻き消えた。
 漆黒の闇の中に取り残された影もまた、瞬きほどの時も置かず同様に消えた。

 ぱちぱちぱち……。
 意識が覚醒したルヴニールの耳へ真っ先に届いたのは火のはぜる音。
「んー……おはようー」
 青年は何事もなかったように起き上がって大きく伸びをした。
「おはようございます。夕食に鹿を狩って参りましたがお食べになりますか?」
 同じく何事もなかったように返すシャーマンの少女。
「ほっほっほ。もう目が覚めたか。若いのぅ」
 頷きながら肉を頬張るオークの老司祭。
『……おはよう』
 呆れ気味だがきちんと返してくる黒翼を持つ男性。
 ばきっ。
 無言で殴って離れていく狂戦士の女性。
「いったぁ……うん。食べる食べるー」
 何故か賑やかな中、青年の旅路は始まったのだった。


 To be continued...


 

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