365 letters 2010.3.17 忍者ブログ
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2010.3.17   【草】

Novel stage / Fun Fiction:Fire Emblem 聖戦の系譜

《芽吹く時》


 


 

 シレジアの春は短い。けれど、確かに存在する。
 大地を覆う雪が暖かい日差しに拐されて大気へ消え、数ヶ月ぶりの輝きを受けた土は抱く種子へ目覚めを促す。
 そして全てが白かった世界に、緑が生まれる。

 きぃ、と微かに軋む扉を閉める。
 かつては四人いた家。三人になった家。そして、最後の一人さえいなくなる家。
 取っ手を掴む二十歳に届かない青年は、これまでの年月をほとんどこの家で過ごしてきた。大きくも立派でもない普通の家だが、思い出だけは沢山詰まっている。
 いいものも、悪いものも。
 それは全て失ってはいけないもの。
 だけど。
「行かないことは、できないよな」
 大切なものを取り戻すために、一度置いていく。
 頼りにするのは確証もないほんの僅かな手掛り。必要な物を買いに出た時、通りすがりで耳に入った噂に過ぎない。
 けれど、シレジアの風がそれを青年へ届けるのなら何か意味があるはずだ。
 冬が終わり、春が来るまで待った。
「じゃ、行ってくる」
 旅装の青年は一言残して、外套を翻す。血脈を表す藤色の髪が僅かに遅れて靡いた。

 『風』は吹き始めた。
 吹き始めた『風』は何者にも止められない。何者にも縛られない。
 なぜなら……それは『風』だから。


 Fine.


 

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