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2010.3.18 【布】
Novel stage / Fun Fiction:SN1
《秘密の贈り物》
昼下がりのサイジェントの孤児院。仕事や遊びに行っている者も多く、今ここに残っているのは数人といったところだろうか。
昼食を終えて一度部屋へ戻ったハヤトは洗濯物を干しているリプレへ声をかけた。こっそりと。
「リプレ!」
「なに、ハヤト?」
周りに誰もいないことを確認して、振り返った少女へハヤトは後ろ手に持っていた大きな袋を差し出した。
「これ、よかったら使ってくれないかな」
不思議な顔をして受け取ったリプレが袋の口を開けると、中には色とりどりの布地が大量に入っていた。大きさはまちまちで、端切れからシャツ位取れそうな大きなものまである。
「どうしたの、これ?」
「ちょっとした騒ぎがあって、助けたのが布とか服を扱ってる人だったんだ」
どうしてもお礼がしたいって言われて、お金じゃなくて余ってる布切れで貰った、とハヤトは照れたように笑う。
言われてみると、彼は午前中どこかに行っていたようで孤児院にはいなかった。
「そうだったの……ありがとう。これで新しくいろいろ作れるわ」
「喜んでもらえてよかった。あ、何か照れくさいから皆には内緒な」
嬉しそうにお礼を言うリプレに、ハヤトは口の前に一本指を立てて見せた。
それから数日後。
リプレは貰った布で新しい服や袋、小物などを完成させて住人たちに渡していた。もちろん出元については秘密を守って。
疑問に思う人間は何人もいたが彼女はうまくはぐらかしていたし、ハヤトも言わなかった。
子供たちが喜ぶ様子を背に少年は外出した。こっそり剣と誓約済の石を持ち出して。
崩れた外壁から街の外へ。そして街道にほど近い荒地へと向かう。
道が近い為に掃討されることもあるためか、ここに出現するはぐれ召喚獣はそれほど強いものはいない。ハヤトならば油断さえしなければ片っ端から切り捨てられる位に。
しかし彼がまず取り出したのは誓約済の石。近くにいるゼリー状の魔獣の方を向いて、石へ呼びかける。
「来てくれ、ライザー!」
誓約の光が魔獣の背後に現れる。ピピッ、という電子音と共に丸っこいボディが体当たりすると魔獣は溶けるように消えていった。
「今日も頼むな」
ピッ、とライザーが応じ、残りの魔獣たちへ向き直る。ハヤトも別の誓約済みの石を取り出すと、召喚術を準備する。
普段の戦闘ならハヤトは召喚術より慣れた剣で戦うだろう。彼は誓約を行うとはいえ、術を行使するのは苦手としているのだ。前衛であるため発動する暇がないということもある。
「でも、苦手って言い続ける訳にもいかないよな。貫け、シャインセイバー!」
ライザーがうまくおびき寄せた魔獣に光の剣がが落ちる。威力が低いため、一撃で倒しきることはできない。ぷすぷすと煙をあげる魔獣にライザーが止めをさしていく。
「やっぱり俺じゃあ倒しきれないか……」
精神力も低いハヤトはもうこれ以上召喚術を扱う力が残っていない。彼は仕方なく剣を抜いて、ライザーと共に魔獣へと突っ込んでいった。
得意な戦闘方法に戻れば、魔獣はあっという間に数を減らしていく。
そしてきっちり倒し終えてライザーを送還した時、街道から呼びかけられた。
「今日もお疲れ様ですー」
祖父と思しき人が操る馬車に乗る十代後半の少女が手を振る。
周囲に魔獣がいないことを確認してハヤトは彼女達へと駆け寄った。
「もう商売の方はいいんだ?」
「はい。おかげ様で商品も全部無事に売りさばけました。これも荷物を守ってもらえたおかげです」
少女は満面の笑みで、祖父は人好きのする笑みで頭を下げる。布を貰った理由は本当。けれど、助けた場所は街ではなくこの街道だったのだ。
「ありがとうございました」
「偶然通りがかっただけさ。帰りも気をつけて」
「はいっ!」
祖父と孫娘が名残惜しく馬車を走らせ、その後ろからハヤトが手を振って見送った。
やがて馬車は小さくなって地平線へ消えて行き。
「なるほど。出所はあれか」
背後から聞こえた声にハヤトは手を上げたまま固まった。
「それで、君はどうして僕達に声もかけずこんなところにいるんだい?」
「キ、キール……」
ぎぎぃ……っと音がしそうなくらい、ぎこちなく首が背後に回る。声の主は、召喚術について教わっているパートナーの召喚師。
あくまで無表情のキールにハヤトはだらだらと冷や汗が流れる。
「何度も何度も危険なことはするなと君には言ったはずなんだが」
「いや、その」
近付いてくる召喚師にハヤトは巨大な敵を相手にしたような威圧を感じた。
キールは凍りついた彼の腕を掴んで方向転換、街へと歩き出す。
引き摺られているうちに漸く硬直の解けた少年は、引かれるままについて行きながらぽつぽつと呟く。
「教わってるのに、俺、全然召喚術上手くならなくて……戦いが激しくなる前に練習できるだけしておきたいけど、皆の前でやって下手だとキールが困るかなって」
「そんなことより僕には大切なことがある」
召喚師は一度立ち止まった。腕を掴んでいる手が痛いくらいに握られている。
「……君が、無事でいることだ」
怖いくらいの威圧は、心配の裏返し。
「……ごめん。でもちゃんと」
「頼むから」
ハヤトからキールの表情は伺えない。けれど、きっと、今は無表情ではない。
「せめて、誰にも言わずに行かないでくれ。何かあってからでは……遅いんだ」
そう言うと、キールは再び歩き始めた。掴んだ手の力は捕まえるだけの力しか入っていない。
「……ごめん」
その背に向かって、ハヤトは謝った。
Fine.