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2010.12.15 【席】
Novel Stage / original:Willwart
《空の議席には憤りとむなしさだけがあった》
既に人気のなくなった会議場に白翼族の青年は立ち尽くしていた。
考えばかりがぐるぐると回り、行き着く果ては唯一つ。
大切な妹はもう帰って来ないという残酷な現実と、妹を大切に思っている親友へ事実を伝えなければいけないという残酷な未来。
たった一日で大切な者が一気に掌から零れ落ちたあの日の混乱は、精神的にも鍛えられているはずの議会直属の騎士にも強い衝撃を与えていた。
もちろん影では青年の関与を疑う者もいた。
だが、彼はその日、間違いなく直前まで議会の資料室にいたのを同僚や資料を頼んでいた議員に見られている。それに彼の真っ直ぐな人となりはよく知られている為、彼に向けられる感情の多くは同情やいたわりだった。
あれから数日経ってもまだ腫れ物に触るような同僚達の反応が申し訳なくて、掃除にかこつけて詰め所から逃げ出した。言い訳とした通りにざっと掃除をしようとするが、立ち止まるとどうしても意識の表層に上がってきてしまう。
ここで、青年は告げられたのだ。
『不慮の事故と言うことを議会の方々が汲んでくださった。記憶の消去は免れないが、終身ではなく三百年の幽閉で澄んだ』
嬉しそうな表情で告げた騎士団長の言葉に、彼は深々と頭を下げて手を尽くしてくれた団長や関係者への感謝を述べた。
恐らく上手く取り繕えたと、彼は自嘲気味に思っている。
何故なら、青年にとって大切な妹が手元から引き剥がされ、会えなくなり……もう、兄と呼んでくれないと言う事実は変わらなく重たかったのだ。演じなければ、大恩のある団長に対してだろうと掴みかかり、大声で喚いて妹の身に降りかかった理不尽な罰を罵っていただろう。
いっそその方が楽だったのではないか、と思う感情も心の隅にある。妹と同じように全てを捨てて、都市の外側へ出ると言う思い。
けれど、そこまで感情に全てを任せられるほどは青年の理性は弱くなかった。鍛えられた精神は冷静な判断を下した。戻ってくるのならその場所を保たなければいけない、そして、漸く目覚めたばかりの親友を放置しては置けない、と。
ただ、そこまで思考が辿り着くとどうしても捕らわれてはいけない思いが湧き上がる。
「……俺は、いつまであいつを憎まずにいられるんだろう……」
青年は小声で呟く。
右手で左胸、心臓の上辺りをぎゅっと握り締め、苦痛に耐えるように。
「あいつのせいじゃ、ないのに…………」
怒りに蝕まれていく感情が理性で制御しきれなくなる時がいつか来るかもしれない。
その時、青年は再びこの場所に呼ばれるだろう。今度は席を埋める議員の真ん中に。
「……やめよう。考えたら、尽きなくなる」
重たい心臓を抱えながら青年は詰め所へと戻る。
また早めに業務を終わらせてブラックスター家へと向かう。地上から連れてこられ、まだ目を覚まさない黒衣の青年も気になる。
とにかく別のことでいやな思考を追い出し、彼は歩き出した。
Fine.