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2010.12.13 【絶】
Novel Stage / original:Abyss of Time ~ After the Nightmare ~
《冬に燃ゆる彼岸花》
ちゃちゃちゃっ、ちゃちゃちゃっ、ちゃっちゃっちゃーん。
菘が勝手に設定した華麗なる大円舞曲が携帯から鳴り響いた。この曲が流れるということはかけてきたのは皐月紫。菘の創造主だ。
彼女は自分と年齢はほとんど変わらないが、幼い頃から大人達に混ざっているせいか仕草の一つ一つがとても洗練されていて、つい目が行ってしまう。
いわゆる憧れの人からの着信に少し緊張しながら、俺は携帯を手に取った。
「はい。時雨です」
『和君か? そちらは変わりないんだな?』
切羽詰った皐月さんの声が強く鼓膜を震わせる。緊急事態が起こったとき稀に聞くくらいで、これほど焦った声も珍しかった。
「今自宅です。特に何も起きていませんが……?」
何かあったのか、というニュアンスを込めて聞き返すが、皐月さんの焦りはまだ止まらない。
『今日は菘、そっちに行っていたか?』
「え、ええ。途中まで一緒でしたが」
『何かおかしいことはなかったか? なんか怪しいやつが目をつけてたとか?』
戸惑う間にも矢継ぎ早に繰り出される問いがどんどん頭に響いてくる。皐月さんがここまで慌てることはほとんどない。そして、いままでそのレアケースに関連するのは全て菘絡みだったということ。
「特に思いつきませんが、あいつに、菘に、何かあったんですか?」
漸く聞き返すと、途端に皐月さんは言葉をなくした。
しばしの沈黙が続く。
「……皐月さん?」
『あいつが……』
搾り出すように、震えた言葉が携帯の向こう側から聞こえてくる。
『菘が……帰って、ないんだ』
「……っ!」
『家に帰れば帰宅のシグナルがこちらに届くはずだが、未だに反応がない。かといって私に何か連絡があったわけでもない。和君には何か心当たりがあるか?』
一度クールダウンしたことで普段の冷静さが戻ったのか、皐月さんの勢いが治まって必要な情報だけを得ようとしているようだ。
「いえ。私は何も……」
そう答えようとした時、部屋に備え付けの電話が鳴った。少し待ってみたが、止まる気配はない。
「すみません。別な方から電話が」
『ああ、すまない。何かわかったら知らせてくれないか? こちらからも情報を回すから』
「はい」
一度携帯を切ると、急いで電話を取る。関係ないような内容だったら即座に切るつもりで多少荒々しい口調で出た。
「はい。時雨です」
『……』
「どちらですか?」
受話器の向こう側からは酷く上がった息遣いだけが聞こえ、他にもノイズが入っていて明確には聞こえない。
「悪戯なら切ります」
『……のど、か……』
大きくなる雑音の中で、少年のかすかな声が聞こえる。今日も昨日も、ずっと聞いてきた声が。
「…………菘?」
『こんな……つもりじゃ…………』
「今どこにいるんだ!? 何をしてるんだ?」
まさか失踪した当の本人からの電話。即座にまるで皐月さんのように菘への質問をいくつもぶつける。
『絶対、会えるって……しんじてた…………でも……こんな形で、会いたかった、わけじゃない……』
「おい、菘。どうしたんだ急に!」
『……僕、追うから…………ゆかりさんに、いっといて……心配しないで、って……』
「……馬鹿! そんなこと出来るわけないだろ!?」
『……ごめん、ね……』
ぷつっ。
その言葉を最後に電話は切れた。つー、つー……とただ響く無駄なコール音。
「……放っておける訳が、ないだろ……!」
おそらくその瞬間が、人生の中で最も頭に血が上った瞬間だっただろう。
俺は受話器を電話へ叩きつけると即座に動ける支度を整えて部屋を飛び出した。
目指すは『久遠の薔薇』研究所。
Fine.