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2010.12.18 【憂】
Novel Stage / original:Absoetia
《壊れかけた精神でも捨てられなかった》
がんがんと響き渡る声。呼ぶ名前は私の名前ではない。
けれど、その哀願にも似た叫び声は確実に私へと向けられたものだった。
違う、と何度も心の中で叫び返す。だが、頭が割れそうに響き渡る音の方が強すぎて自分の中でさえかき消されてしまう。
外側からではなく、内側から叩き、砕かれてしまうような感覚。全て中から染み渡るように広がっている為、防ぐことすら出来ない。
違う。痛い。やめろ。
そんな全ての感情をあざ笑うかのように、声は私そのものをかき消した。
感覚も何もかも主導権を奪われ、自分自身でも引き出したことのない程大量の理の力を引き出され、辛うじて現状を把握していたはずの意識が深い深い闇の底へと引きずり込まれていく。
精神がこなごなに潰れていくような、そんな、なかで。
自分がいなくなったら、だれかが泣いてくれるのかと。
いないことを憂いて、探してくれるのかと。
どうでもいいことが、さいごに、浮かんだ。
そのまま消え行くはずの私は、また異なる外からの干渉によってはっきりと目覚めさせられる。
『まだ、最後ではないよ。名も知らぬ大地の民』
粘着く闇の中に一つ、柔らかな波紋が広がった。
『酷い目にはあっているみたいだがね。欠片が完全に砕けていなくてよかった』
決して強くないがゆっくり、確実に浸透してくる。だがあの内側から壊していくような恐怖はなかった。どちらかというと全体を優しく包み込んでくる。
『さあ、一つずつつないでいくとしよう。細かくなっても君にはわかるはずだ。どの欠片がどの欠片と近いのか、同じなのか、それとも続きなのか』
ふわり。ふわり。
光と言うほど眩しくない、そう、深緑色の輝きが深い闇に沈められた私を掬い上げ、周囲に散らばった"私に近い何か"を私の元へと集めてくる。
(これは……)
『これは君を構成していた一部。だが、恐らくは強い呼びかけによって君の弱い意識は一度砕かれてしまった』
ふる。
少し大きく震えた深緑色の波が私へ促すように欠片を更に集めてくる。
『君の感覚でいい。恐らくそれしか君を再構成する方法はないのだからね』
(……わたしは、もどりたいのだろうか)
沈み行く時に思ったことは偽りではない。私の本当の家族は既に引き剥がされ、私にとって大切な者はあっても、私を思うものなどいるのだろうか。
それを信じるに足るだけの証拠が私にはなかった。
『……ふむ。君が戻りたくないというのならば仕方がない。だが君には大切な者はいないのかな?』
ずっと柔らかだった波紋が少し冷たさを帯びた。
『もしいるというのなら戻りたまえ。厳しい言い方だが、君が想いを持っている者が君に対して何も持っていないというのは君の欺瞞だ』
強く言い切る波は大きなうねりをもって私へと迫る。まるで強く抱きしめられるような感覚に包まれたまま、私は戸惑いながら周囲の"私に近い何か"へ自分の意識を向けていった。
「……やれやれ。どうやらこちらも応えてくれたようだね」
黒翼族の男性は黒衣の青年の額から指先を離すとひとつ大きく息を吐き出した。ただでさえ巻き込まれて天空都市まで連れてこられたというのに、このまま壊れてしまっては目覚めが悪い。原因が弟にある為、尚更だ。
「あとは自分で解決してくれるのを待つしかないね。その間の肉体管理もきちんと計画を立てなくては……」
ぶつぶつと呟く背後では未だに眠りから覚めない青年が孤独な戦いを続けている。
Fine.