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2010.12.22 【印】
Novel Stage / original:Abyss of Time ~ After the Nightmare ~
《パートナー》
「……その後の事はよく覚えてない。和に連絡したのも、どのくらい走ったのかも全然意識していないんだ」
めちゃくちゃに走って、走って。気がつけば僕の目の前には泣きながら怒っている紫さんがいた。
研究所に連れ戻され、メンテナンスを受けながら覚えてる部分だけでも懸命に話す。実際そんなに話せることはないけれど、それだけでもしないと二人が納得しないからだ。
今は心配そうな表情だけを浮かべる紫さんと、怒っている表情のままただ黙って立っている和。
「あとは紫さんに会ってからのことだけだから、特につけたすことはないけど……」
「そうか」
コンピュータを操作しながら紫さんは頷く。その表情はあまり冴えない。
「……紫さんは、どうして僕の居場所がわかったの?」
「……和君に連絡してもわからなかった時点でイレイサー絡みだろうと踏んで、どんな微弱なイレイサーの気配でも探ってくれと頼んだ。どんなにルシファーが気配を殺してやってきても、もしくはお前の〈リコリス〉が作動してもわかるようにな」
そうしたら案の定微弱な反応がヒットし、場所から紫さんは僕がいることを確信したらしい。かつて最後に心さんとあって、別れた場所。それは僕だけでなく紫さんにとってもそうだった。
「その後動いたから何事かと思ったが……」
「心さんらしき人を追いかけていたんだ。でも……疲れて、動けなくなっている間にいなくなってしまった」
「……あの世界の関係者であることは間違いなさそうだが」
一言も口を開かなかった和がメンテナンスに使われている機材を覗き込んで呟いた。
普段なら反応しない部分、刻まれたリコリスの印から微弱な反応がある。僕の内側へ埋め込まれたイレイサーの部分の活性がメンテナンスの機器に反映されている。
「そ、っか……」
なんとなく安心している自分がいた。イレイサー側の人ということは、心さんである可能性が残っていると言うことだから。
すると、和が改めて僕を見ていた。
そして僕が見られていることに気付いたと同時にこちらへ歩いてきて。
「菘」
一気に服の袷と襟の結合部分を掴みあげられた。その手には血管が浮くぐらい強い力が込められている。
「の、和?」
「何のためのパートナーだ」
その目は今まで見たことないほど怒りに満ちていた。
「お前が封筒を渡されたのは、今日俺といたどこかの時間だろう。移動時間から言って別れた直後にお前が移動を開始したのは間違いないからな。何故言わなかった」
「それは……和を、巻き込みたくなかったから」
僕は自分でもわかるくらいたどたどしく応えていた。それは多分、僕にも話さなかった理由がよくわからなかったから。
そして、自分が納得しない理由で和が納得するわけがない。
「イレイサー絡みでもか」
「だって、心さんのことについては……」
「知っている。お前や皐月さんにとって都川心と言う存在がどれだけ大きいか、おぼろげだが把握しているつもりだ」
ぎり、と襟元が更に引き絞られる。
「そこまで話しておきながら、なぜ一言も残していかなかった。ついていけなくとも、連絡があればここまで大事にならずに済んだ、違うか?」
「……その通り、だよ」
紫さんも和も自分の出来うる範囲を隅々まで使った。紫さんは『久遠の薔薇』、和は特殊捜査課の力を遅い時間にもかかわらず発動させたのだ。
「ごめん。迷惑かけて」
「菘、違うぞ」
激昂する和と違って、紫さんはどちらかと言うと悲しそうな表情に見えた。
「迷惑などとまったく思ってない。心のことは私にとっても気にかかっていた。だから」
その指先が、ぴん、と僕の額を弾く。
「最初から頼っていいんだ。お前には天才の製作者も、頼れる相棒もいるだろう?」
「……はい」
その言葉で、僕は和が怒っていた理由がわかった。一人で行ったことだけじゃなくて。
「和、ごめん。僕達はパートナーだもんね。危険かもしれないってわかってたのに、何も言わなくて、ごめん」
和はまだ無言のままで、それでも手は離してくれた。
「さあ。今日はもう休め、菘。逃げた心らしきものはちゃんと私の方でも追跡を狙うから」
「はい」
少し申し訳なく思いながら僕はそのまま目を閉じた。外界の感覚が段々薄れていく……。
Fine.