365 letters 2010.12.25 忍者ブログ
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2010.12.25   【列】

Novel Stage / Fun Fiction:LoV

《紅の円列》


 



 

 飛び去った断罪の天使を見送っていた青年たちはただ空を見上げていた。途切れ途切れに聞こえていた子守唄はだんだんはっきりとして来ている。
「パワーズちゃん、大丈夫かなー」
 座ってはいたものの、心配そうに紅い瞳を空中へ彷徨わせるルヴニール。応えたのは既に大地へ視線を落としたヒルデガルドだった。
「スペルヴィアのロードだったのが伊達でなければ、返り討ちに会うなどという無様な真似は晒さないだろう」
「そりゃあそうかもしれないけどー。ところで、なんかヒルダちゃんの言葉に棘がある気がするんだけどー」
「当たり前だ」
 口を尖らせた青年に女性は鋭い目線を向ける。
「あの天使が何故復活した上同行しているのか、私は知らないからな」
「……おぅ」
 ぽむ、と青年は手を叩いた。直後、長刀の峰で薙ぎ払われて吹き飛んだが。
「さ、流石に痛すぎるんだけどー!?」
「あとで説明するとか言っておきながら忘れていただけかお前は!」
 苦痛というよりは吹き飛ばされた衝撃でくらくらしているのを見ると、彼女はどうやら相当不満を溜め込んでいたようだ。他の仲間も止める気がない。一部は単純に興味がないのかもしれないが。
「で、でも、説明、って言ってもなー」
 一応上半身を起こしてからヒルデガルドと向き合う青年。
「スペルヴィアでアルカナ継いだ時、アルカナの力だけじゃなくてパワーズちゃんの記憶とか想いとかまで一気に流れ込んできたんだよー。今思うとアルカナごとパワーズちゃんが私の中にお引越ししてきたって感じかなー」
「それで乗っ取られかけたのですか?」
 止めはしないが興味はあるらしいシャーマンの少女が尋ねると彼は頷いた。
「みたいー。それで、私がキレてたらやめなさいって怒りながら出てきたー。その後のベルゼバブは中に来た感じはないから、最初だけ何かあったのかなー」
 変なの、と肩をすくめながらルヴニールが立ち上がると脳内に小さな呟きが聞こえた。
『歌が、止まった』
 青年が視線を向けると呟いた男性は既に立って空を見上げていた。耳を澄ませてみると、確かに吹き飛ばされる前までは聞こえていた旋律が聞こえなくなっている。
「……ほんとだ。歌が聞こえなくなってる」
「何?」
 ルヴニールが口に出すことで他のメンバーも警戒し始める。
 すると、上空から風を切る音が聞こえた。北西の方向から真っ直ぐこちらへ向かって何かが飛んでくる音だ。
 それぞれが武器を手に取って神経をとがらせた瞬間、彼らの上空十メートルほどの位置を鋼の色をした大きな翼を持つ細長い影が一瞬過った。通り過ぎる、というには余りにも早すぎる交錯。
「翼は鳥の様じゃが……ハーピーかの?」
 僅かに得た情報からオークオラクルが推測する。だがハーピーにしては両腕が翼であるという点は一致するものの、サイズが大きく全身の色も暗かった。
 どちらにしろ飛び去ってしまえば、せいぜい目線でその方向を眺めるくらいしかすることはない。ただ、風を切る音自体が止まらないことからそれほど遠くへは行ってないように思える。
 それから少しして、白い翼を持つ断罪の天使が酷く焦りながら何かが飛んできた方向からやってくる。かなり急いだようで翼の羽ばたきがもう弱い。そしてほぼ同時に強い風切音が戻ってくる。
「あ、パワーズちゃんだー」
 そう言いながら手を振る青年。
「ルヴニール、戻ってきます!」
 彼と背中合わせに立って警戒するアサシンの少女が叫ぶ。
 元の速度の差もあって、この場に戻るのは両腕が翼の鋼色した女性の方が早い。それでもパワーズは叫んだ。
「気を付けて! 狙いはあなたたちよ!」
 ほぼ同時にセイレーンも叫んでいた。
「邪魔、させない!」
 その瞬間、大地から風が巻き上がった。その範囲は地上にいたルヴニール達を全員巻き込むくらい広い円形状。
 彼らが周囲の異変に対応するよりも早く、風が円の中を駆け廻り駆け上がり切り刻み爆発した。
「……っ!?」
 かろうじて防御態勢が取れたのは空中にいるパワーズだけだった。ふらふらになった翼が煽られて更に上空へと押し上げられる。
 吹き上げられる大地の欠片や巻き起こる風を防ぎながら天使は見た。
 鋼色の翼が一気に降下し、膝をつくフィーギーナの横を通り過ぎて背中を向けるルヴニールの両肩に爪を食い込ませ、膨らんだ風を翼に受けて空へと飛び去る姿を。風の流れを読んでいるセイレーンは動きを遮られることなく、むしろ加速している。
 断罪の天使が動けるようになった時点で既に欠片もその姿はなかった。地上は消し飛んだ者こそいなかったものの、何人かはかなりの怪我を負っていた。
「……やって、くれる……っ!」

「リシア!」
 とっさに雷が放たれるが風に煽られながらでは届かない。それは白い翼を持つ男性の姿をした魔種であっても、緑の鱗を持つ竜のブレスであっても同じ事だった。
 鋼色の影が少女の肩を捕らえて舞い上がる。
 黒髪の残像だけが彼らに残された。


 Fine.


 

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