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2010.12.30 【芝】
Novel Stage / Fun Fiction:LoV
《憤怒の竜》
イーラの結界の要となっているのは一頭の巨大な竜だった。
世界の平和が崩壊してから十年以上、その竜は遺跡の地下にある巨大な樹の根元に縛り付けられ続けた。
大崩壊の中心地であったかつての王都、アヴァリシアを護るためだけに意に添わない拘束を受けているのだ。
自由にならない身体。
勝手に結界の要とされた怒りは、憤怒の結界となって王国へと進入しようとする者全てを阻んだ。
その憤怒は既に、竜を結界の要とした者達だけでなく、この地この世界に息づく草一本にさえ向けられていた。
側にいるのは使い魔のみという地下。
憤怒の結界の要にして憤怒王国イーラを統べるロード、ファーヴニルは二人の人間が近付いてきていることに気付いて重たげに頭を上げる。
ただの人間ではなく、自身と同じくアルカナの力を宿すロード。使い魔たるセイレーンが連れてきたことはわかっているが、竜にしてみればそんなことはどうでもいい。
紅蓮の王を目指す者達は最後の一人まで殺し合う。協力しない、たった一人の人間ごときに何が出来るというのだろうか。
ただ、暇潰しくらいにはなるだろう。
竜は遺跡の護りにつく使い魔達を集めた。十数年ぶりの客人を迎えるために。
「結構深いんだね、この遺跡。あ、そこ、足元脆いから気をつけてねー」
先頭に立った青年は松明を掲げて階段を下りていく。先や左右、天井の落下などに注意をしていることはわかるが、背後にいるもっとも敵となりうる存在、リシアへの警戒は見られない。もちろん松明を持っていない方の手には漆黒の杖を抱えてはいるが、強い意識が向いていないことが彼女にはわかった。
「……心配は無用だ」
戸惑いながら少女は答えた。敵どころか気遣いさえされるという不思議な立場は居心地がいいとは言えない。
「でも転ばぬ先の杖ってことでー」
にこにこと返される笑みへ、背後への警戒は怠らずに彼女は尋ねる。
「何故私を敵としない」
「害はあっても利がないから、って言っちゃってもいいんだけど」
杖の頭を軽く顎に当てて青年は首を傾げる。
「でもどっちかというと、私はあなたを敵に回したくないから」
「どういうことだ?」
「リシアちゃんとはまだお話し合いが出来そうだからねぇ」
いぶかしむ少女にルヴニールは答えた。
「私はね、王になりたくて戦ってるんじゃないんだー。正確にはそれが最終目的じゃない」
「何?」
確かにリシアから見ても、この地を支配したいという気概は青年から感じられない。どちらかというと支配などといった権力からは離れたがる人間だろう。敵と味方を臨機応変にとろうとする態度などはわかりやすい傾向だ。
「私は元いた世界に帰りたいだけ。思い出せないけど、私はここの人間じゃないから、戻りたいだけ」
「紅蓮の王になりたいことには変わらないのではないか?」
「んーん」
一度足を止めて青年は振り返る。
「優先順位が逆なんだよー。帰れるなら、他に帰る方法があるのなら、私は紅蓮の王になれなくても構わない」
例えばリシアちゃんが統一してから送り返すとかー。
そういってルヴニールは笑う。いつもの様に、いつもの通り、真意を全て覆い隠す変わらない笑みで。
「ま、あとで話そうよー。今の私たちの優先事項は下の誰かさんだし」
自分が目指していることを一段階として言われたうえ、さらっと紅蓮の王を渡してもいいという発言に少女は何も言えなくなる。怒ればいいのだろうか、けれど違う気もする。
結局、彼女はまた青年の後ろを追うしかなかった。
やがて見えてくる天まで聳えるような巨大な樹。
根元にうずくまる竜と使い魔、そして芝のように横たわる黒き漆黒の瘴気。
憤怒の籠もった竜の咆哮が広間を振るわせ、二人のロードを竦ませようと襲いかかった。
To be continued...