[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
暫くかかると思っていたらもう七夕でござる。
この時期に寒い話とかおかしいだろと思いつつキーを叩いてました。
かなり暑かったですもの今日……。
でも七夕という願いが叶う日だから、いいかな。
《99%の鈍さと1%の優しさ》(後編)
Novel Stage / Fun Fiction:剣と魔法と学園モノ。
「いつでも、いいよ」
両手に短剣を携えて、少女はただ立っていた。一見すると油断しているようにも見えるがそれは表面だけだ。
嵐の前の静けさ。すぐ動く為の弛緩。
実際、カゲロウの合図で先に床を蹴ったのは彼女の方だった。
まっすぐザクスへ走るように見せて、その直線軸は少しずれている。方向を見た目の対方向で合わせようとすると、軸のずれで完全な力はかからない。
「やあっ!」
右の短剣が勢いよく突き出される。
対するザクスはそれを剣の腹で受け、殺しきれない力を利用して後ろに飛び退く。
空いた隙間にはユノの対の刃が刺さっていた。
連撃をかわした少年はすぐさま反撃に移る。流された長剣を引き戻し、たたらを踏む小さい姿に振り下ろす。
「まだまだっ!」
きゅっ、と床が鳴った。
90°方向を変えたユノは剣の平らな面を蹴り一回転。足から着地し、低い体勢から伸び上がり両手を薙ぐ。
ザクスは体勢を崩しながら上体をそらしてかわす。更に地面を蹴って距離を取る。
いくら素早さを売りにする軽戦士でも、単純なスピード勝負ではかなわない。咄嗟の事態にも対応出来るよう盗賊としての基礎も身に着けた少女の動きは、種族特性も相まってそう追随を許すものではないのだ。
少年は剣を両手で構えると、待ちの体勢に入った。速さで不利ならば、別の勝負に持ち込めばいい。
「そう」
何故か、少女の目が冷たい光を宿した。
「お望み通り行ってあげるわよ!」
突然の変化にザクスが戸惑った隙をついてユノが走り出す。
直線で距離を詰め、間が数歩になった所でステップをジグザグに。剣とナイフが噛み合うまでは先程とあまり変わらないが、その刃は一本だけ。少女は後ろを振り向きながら対の武器を持つ手で半円範囲を薙払う。
鈍い音を立てて一対の短い刃と一本の長い刃が噛み合った。
「読んで、たんだ」
ユノが苦さを滲ませた声で呟く。年頃相応の力しかない少女と戦士として動きを鈍らせないようにしつつも鍛えた少年の差は歴然で、交差した短剣は徐々に押されている。
「何を焦っている?」
普段の無表情に戻っていたザクスは静かに訊ねた。失敗すれば力勝負になることが明らかな戦法を取るには、あまりにも早すぎるタイミングだ。
「焦って、なんか、ないっ」
口ではそう言いながらも慣れない鍔迫り合いを止めようとしない。
先程からの様子も合わせると何かおかしいことくらいは疎いザクスでもわかる。ただしこれ以上聞き出す話術はない。言葉を継ぐことなく、腕に力を込めて返答とした。
弾けるように離れる二人。
そして、ザクスは宣言する。
「次で決める」
潰れた切っ先を向けられたユノはじっと視線を合わせながら、両手の短剣を構えた。言葉は、ない。
一瞬の空白。
床を蹴り出す二つの音が重なった。相対距離はみるみるうちにゼロへと近づく。
だん、という踏み込みが響いた。
振り抜かれる潰れた刃は少女の頭上、白い帽子を薙払い、僅かに勢いを殺しつつもベクトルを真逆に変える。一太刀目は囮、この二太刀目が本命だ。
対する相手は体勢をぎりぎりまで低くして剣を潜り、更に前進しようとした時だった。
「……っ!」
ユノの表情が苦痛に歪み、その身体が傾いだ。薙がれる長剣の軌道上に。
ザクスの目が驚愕に見開かれる。
勢いのついた剣が迫るのは帽子を跳ね飛ばされた少女の頭。いくら刃が潰れているとはいえ、重量は変わらない。
このまま当れば、ただではすまない。
「ユノっ!」
普段、ザクス以上に感情の変わらないカゲロウが思わず叫んだ。
側で見ていたカースエントも動き出すが、流石に訓練エリアの外では間に合わない。
がつ……どさっ。
かつっ。
から。
からん。
凍りついた空気の中で剣が床に転がる音だけが木霊した。
他の訓練生も手を動かすことなく固まり、その場にいた全員が彼らの訓練エリアを注目していた。
最初に音もなく動いたのは、剣を手放した少年。そのすぐ足元に蹲っている少女を片手で抱え起こす。
「ユノ」
「つ、ぅ……」
ユノは左の足首を押さえていた。見た目に腫れなどは見られないが、痛みは強いようでその位置から動けないでいる。
それでも声をかけられたことに気付き、彼女は顔を上げた。心配をあらわにする目線に微笑んでは見せるが苦痛は隠し切れていない。
「へ、へいき、だよ……」
「動くな」
起き上がろうとするのを制して、ザクスは立ち上がろうとする。だが。
「君も動いちゃだーめ」
駆け寄ってきたアランが少年の肩に手を置いた。瞬間、フェルパーの少年の片眉が顰められる。
苦痛の表情を浮かべていたユノが不思議そうに見上げる。
「ザクス……?」
「なんでもない。気にするな」
「そうそう。ゆのりんは気にしちゃ駄目だよー」
言いながら、アランはその力を解放する。僧侶学科である彼の能力は癒しの力。ふわりと温かな光がザクスの肩に置いた手から広がり、二人へと染み込んで行く。
「とりあえず治してはおくけどさー。私には怪我の原因はわからないから、ちゃーんとそのまま保健室連れて行ってねー」
再発しても困るでしょ、と釘を押し、彼は離れていった。光は既に収束し消えている。
少年は改めて少女を抱えて立ち上がると訓練場から校舎へと歩き出した。
少しの後、あわてだしたのはユノ。
「も、もう歩けるから! 痛くないから!」
少女は腕の中から抜けようともがく。だが、少年は降ろすことなく歩き続けた。
「どうやら無理をさせたようだ。すまない」
それだけ言って。
するとユノは頬を真っ赤に染めて、首を横に振った。
「違う。ザクスのせいじゃない。あたしが……あたしが、やりたかっただけ」
「それでも、なにかのきっかけを作ったのだろう」
「それは……」
クラッズの少女はそれ以上答える事ができず、言葉を濁した。
僅かな沈黙の間に遠くからは訓練場での手合わせが再開したのか、掛け声や応援する声が小さく聞こえてくる。
「そういえば、賭けはザクスの勝ちだったね」
話題を逸らそうと、遠いことを思い出すようにユノは呟いた。
「気が向いたら、何か考えておいてよ」
「どちらが勝ったという訳でもないが」
「それでもあのままならあたしが吹っ飛ばされて終わってたでしょ。カゲロウに判定任せても負ける自信あるよ」
明らかにユノの方へ有利な判定を出しそうな友人の名前を挙げられ、ザクスは考え込む素振りを見せる。
なんとか話題を逸らせたと少しほっとする少女。沈黙が続く間にも少年の足は止まらずもうすぐ保健室に着く。これで話が続くことはないと思ったのだろう。
いくつか角を曲がり、あとは数メートル真っ直ぐ歩くだけというところで、考えていたザクスの口が開いた。
「決めた」
「は、早かったね」
思いがけず戻ってきた話に内心の動揺を抑えつつユノは答えた。少年は腕の中の少女を見下ろして言う。
「願いを」
「え?」
「お前の願いを叶える事が願いだ。賭けを申し出たのは、願いがあったからだろう」
「そ、そうだけど、えっと……」
収まりつつあった頬の紅葉がまた散りばめられる。もじもじと指先をつき合わせながら彼女の中で何らかの葛藤があったようだが、そっと上目がちの視線を返す。
「……いいの?」
控えめに問われた言葉に返ったのは頷き。
そして保健室の扉が開かれる前に、少女は自らの望みを告げた。
「受け取って欲しいものが、あるの」
その様子を階段の側で見守っていた二つの影は、保健室の扉が閉まると二人が通ってきたのと同じ道を通って戻っていく。
「まさか剣というか手首蹴り上げて止めるとは思わなかったねー」
「手首折ってでも止めるつもりだったようね」
ヒューマンの少年は笑顔のまま、ノームの少女は肩を竦めて軽く笑う。
「ところであの気の利かせ方は罪滅ぼしかしら」
「まーね。まさかずーっと外で待ってるとは思わなかったし」
ひょい、と階段を二段ほど飛び越えて少年は振り返る。
「女の子の大事な大事な、想いを伝えるチョコレートの日だもんね。悪かったなとは思ってたんだよ」
「そう」
一言だけ返すと、止まったままの少年の横に立って彼女もまた振り返る。
大切な友達の想いが、届きますように。
Fine.