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2010.12.24   【章】

Novel Stage / Fun Fiction:LoV

《悲愴曲 最終楽章》


 



 

 子守歌が聞こえる。
 泣いている赤子もいないのに切々と歌い上げる声は、二人のロードへと届いた。

 憤怒王国イーラ。
 その王都エルムの主であったヴァンパイアロードがいなくなって、不死族の支配から徐々に解放されつつある街からルヴニール達は抜け出していた。
 もちろんあれだけ派手に天空から乗り込んだだけあってすぐに多くの不死族に取り囲まれたが、烏合の衆が集まった時点で全員が即座に集団の中へ紛れ込んだ。いくら数が強くとも統率が取れていなければ意味がない。
 一気に囲みを抜け出した後、ロードがアルカナの力の流れを辿って全員を集めた。やがて朝が訪れ、街の外へと逃げ出す一団に紛れ込むことで彼らは脱出を果たした……その場で気付いた哀れな不死族は光を浴びる前に細切れとなって大地へ還って行ったが。

 異変は都から離れて半日ほど経った休憩地点で起こった。
「あら……?」
 シャーマンの少女がふと空を見上げ続いて周囲を見回す。
「どうかしたかの?」
「ええ」
 オークオラクルの問に頷きつつも確認を終えた少女は、それでもまだ警戒を解かずに言った。
「微かですけれど、メロディが……聞こえたのです。歌か詩かはわかりませんけれど……」
 戸惑いながら彼女は告げる。自信はあるのか、表情に浮かぶのは何かがいるのではないのかという不安。
 仲間達は互いに顔を見合わせて確認するが、他に聞いたものはいない。ロードの肩に乗る小悪魔はいつもどおりきゃらきゃら騒いでいるのでどちらかわからないが。
 しかし数分後。
「ほら、また!」
「……あ、ほんとだー」
 今度は全員が聞き取った。
 高い女性の声が歌うゆったりとした旋律が流れてくる。言葉が聞き取れるほど大きい声ではないが韻律を含むことはわかる。
「空の上、かしら」
 断罪の天使が大きな翼を広げる。白い一対の背に輝く光がはためき、漸く訪れた朝の空へと舞い上がった。
「パワーズちゃん、危険だよー」
 ルヴニールが声をかけるものの、パワーズは高く高く飛んでいく。こうなってしまうと彼らには追いかける手段がない。黒翼の男性も、天使のように空を駆けることは出来ないからだ。
 断罪の天使が高度を上げていくにつれ、その耳に届く声ははっきりと言葉まで聞き取れるようになってくる。
 それは、子守唄。優しく愛しげに、歌に込められた想いを伝えるように紡いでいく歌声は天から降っていたのだ。
 薄い青銅のような色をした鳥の翼を両腕の代わりに、太く鋭い猛禽の爪を両脚の代わりに持った女性の姿が見える。肌の色も翼と非常によく似ていて、長いが肌に絡まっているようなもつれた髪は茶色。
「セイレーン」
 魔力を込めた歌声を歌う魔鳥。
 近付いてきた断罪の天使に気がついたセイレーンはじっと立ちふさがる彼女を見るが、すぐに首を横に振った。
 そして、また歌いながら飛んで行く。高度を段々落としていきながら。
「……なんなのかしら?」
 不思議に思いながらもとりあえず原因は判明した。
 パワーズはゆっくりとルヴニール達の下へと戻ろうとした時、ぴたりと歌をやめた目の前のセイレーンが急に加速した。天使が戻ろうとしている方向へ。
「ロード、見つけた!」
「……待ちなさいっ!」
 僅かに遅れて聞こえてきた言葉に彼女の表情が固まる。ルヴニールが何も言わない以上、おそらくこの周囲にいるロードは彼一人だけだ。
 つまりセイレーンが狙うと言うロードはルヴニールである可能性が高い。
 スタートダッシュが遅れた上、相手の方がスピードが速い。追いつけないことはわかっていた。それでも追わないわけにはいかない。
 セイレーンが彼らへ危害を加える前に警告だけでも発することが出来れば……!

 アケディアからイーラへと辿り着いた少女はふと顔を上げた。さらり、と黒髪が動きにあわせて流れる。
 その足元には黒衣を纏った女性のような姿をした魔種。顔だけを見れば美しいとも思えるだろうが髪は胴体の太い蛇で、既に全身を雷に貫かれて息も絶え絶えの状態だった。
「おや、どうかしたのかい?」
 今にも止めを刺そうとしていた手が止まったのを見て、側に浮いていた男性が問う。白い開襟シャツに長く黒いパンツ、背には白く大きい鳥のような翼が広がり、唇から零れる声は甘い響きを帯びている。普通の女性なら頬を赤らめていてもおかしくない。
 だが少女は表情すら変えずに一瞬遅らせたレイピアを突き出し、瀕死だったメデューサへの息の根を止めた。
 そして、一言呟く。
「歌が、聞こえただけだ」


 Fine.


 

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