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2010.12.19 【羊】
Novel Stage / Fun Fiction:LoV
《犠牲の羊》
「何を根拠に出鱈目をっ!」
掌に生み出した炎よりも頬を紅潮させてヴァンパイアロードは怒り狂い、黒いロングマントをはためかせて空に浮いたと思うと周囲へ炎を散らす。
もとより距離の離れていたオークオラクル達の飛竜は食らうことなく、シャーマンとヒルデガルドの乗った飛竜は少女の精霊への祈りによって炎を阻まれ、小回りの効く断罪の天使は悠々と白い翼を広げて回避する。
そして最も近くにいたカイムとルヴニールの乗る飛竜はしっかりと男性の手によって制御され、照準の定められていない炎など食らうはずもない。
それでもロードたる自覚があるのか、次の瞬間には昂ぶりを抑えてバルコニーへと着地する。
抑えた、はずだった。
「だあって、ロードって器じゃないしー。それに今違うこと自分で言っちゃったもんねー」
黒翼の男性に掴まりながらではあるが、青年は再び表情に笑みを浮かべて言葉を続けた。
「……アルカナの宿るロードなら、同じくアルカナの宿るロードの場所くらいわかれって言うこと、だよ」
あはははは、と声を上げて笑った上、最後にぺろっと舌まで出してみせる。その薄い唇は対する女性と同じ位、綺麗な弧を描いていた。
「それすらも出来ないで偽者を名乗るなんて、おこがましいねー」
「おのれ……っ!」
ヴァンパイアロード、あくまで吸血鬼を統べる女王は、もう怒りを抑える様なことはしなかった。
「その身、ちりぢりに引き裂いてあげるわ!」
頭に血が上った彼女はマントを大きく翻してバルコニーから飛び立つ。もちろん背後では青く透明な女性の肉体を持つミズチも黒い爪を振りかざすヴァンパイアも懸命に諌めようとしている。だが、完全激昂した彼女にはもう届かない。
海に属するミズチも飛ぶ力を持たないヴァンパイアもロードを追う事が出来ず、慌てて配下に空を飛べる乗騎を呼ぶよう指示している。
だが、その間にも紫色の髪を振り乱したロードは思いっきり挑発したルヴニールの乗る飛竜の前へと立ちふさがる。
「あなたにそれが出来るのかなー。ただの使い魔で、ロードのスケープゴートでしかないあなたにー」
「アルカナを宿しただけの人間の分際でさえずるのもいい加減にすることね!」
再び溜められた炎は間に割り込んだパワーズの盾によって遮られる。無論追撃をかけてくるが天使はひらりと身をかわし、その背後にいたはずの飛竜は既に位置を変えている。
「小癪なっ!」
炎を纏わせた指先を放つ先を探して飛竜の行方を目で追う。僅かに上を通って逃れた飛竜へと放つが、彼女の背後にはまた別の飛竜。
「はっ!」
一気に飛び出して飛竜の頭まで駆けて来た少女が各手に構えた短剣を交差させ、振り下ろす。放たれた十字の闇の刃が黒いロングマントを抉った。
「きゃっ!? この、うろちょろと蝿のように……!」
しかし彼女は最後まで言い終わる事が出来なかった。ここまで、つまり空中まで誘い出された時点で既に終わっていたと言っても過言ではないのだ。
振り向く間に横を掠めるヒルデガルドの長刀が切り裂き。
今度は集中して攻撃を繰り出そうとすると断罪の天使がその剣を振るう。
一度距離を取ろうとすれば攻撃の射程が長いシャーマンやルヴニールがその杖を翳した。
逃げ回ろうにも小回りの効くパワーズ、そしてたくみに飛竜を操るカイムから離れ続けることはそう簡単ではない。何より、誰かに向えば残りの飛竜や天使に対しては背後を向けることになるのだ。
そして。
「ほーらね。あなたには出来なかった」
途中不死族達も慌てて上がってきたが時既に遅し、永遠の夜の都を統べる女王は背に負うマントが欠片も残らないほど切り裂かれ、なすすべもなく地上へと叩きつけられた。
不死族とは言えど滅ぼす方法がないわけではないし、肉体が粉々になってしまえば身動きは取れない。
その間に彼らは飛竜から地上へと降り、駄目押しといわんばかりにオークオラクルがその六角棒を振りかざす。アルカナの力を減衰させる光を秘めた棍を。
「う、そ……人間……ごと、きが……」
「そー思って挑発に乗ったから、終わったんだけどねー」
にこにこと変わらない笑顔は飛竜の上にいたときから変わらない。青年にとっては、ただヴァンパイアロードが自滅したようにしか見えないのだ。
相手のあまりに平然とした表情に彼女は悔しげに唇を噛み、それが最期の表情だった。
何か言葉を発する前に白く小さな灰の塊へと変わったからだ。
永遠の夜の都の闇が、晴れた。
「……今回は随分と挑発したのですね」
ふわり、と青年の隣に舞い降りた断罪の天使が少し興味を引いたように聞いた。
「あ、うん」
大きく伸びをしながらルヴニールは言った。
「プライド高そうだったから、思いっきり挑発したら出てきてくれないかなーって。あれで飛べなかったとしても、空にいるアドバンテージまで無くす訳じゃないしー」
「……そういうものですか?」
「うん。あ、あとねー。女の人と喧嘩する時は、思いっきり怒らせて山越えてからやるといいんだってー」
そうすると上手くはぐらかせる、と言う青年の背後からは冷たい目線が三つほど飛んできている。
「……まず、怒らせないほうがいいのではないかしら」
結局、青年のこの性格は変わらないのだと天使は大きく溜息をついた。
To be continued...