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2010.12.14 【残】
Novel Stage / original:Willwart
《手段はもう残されていなかった》
あれから幾度もの睡眠と覚醒を繰り返して、少しずつ薄皮を剥ぐ様にギルフォードは回復していった。
途中で動けるようになると自分の部屋には動いたが、栄養補給の時を除いてほとんどは寝て起きてとただひたすらに体力回復に努めていた。
未だに目を覚まさない見知らぬ誰かが気になっているせいもあるのかもしれないが、その間も必ずアレックスかフォレスターのどちらかは様子を見にきていた。少しずつ回復していく毎にアレックスが安堵の表情を浮かべるのを見ると、やはり忠告してくれていた親友に対しては申し訳ないと青年は考える。
けれど、それ以上気になって仕方がなかったことがある。
ギルフォードがいくら詰め寄ってもフォレスターが口を開くことはないとわかっている。だから知りたければ、罪悪感を振り切って彼に聞くしかない。
「大分顔色が戻ったみたいだな」
アレックスが来るのは仕事を終えてからになるのか大体夕方頃。逆に研究職も兼ねていて比較的時間に融通の利くフォレスターが昼間は一通り仕切っている。今日もやってきたのは日が傾いて空が茜色に染まってからだった。
水差しと軽食を運んできた白翼族の青年はじっと表情を伺ってくる。
「……アレク」
真剣な眼差しが少しの間どんな異常も見逃さない、と言いたげに向けられ、すぐに和む。
「そろそろふつーのでもいいだろうけど、まあ、無理はしないに越したことにない。もう少し大人しくしてろよ?」
「聞きたい事が、ある」
片付けられたテーブルの上にトレイを置く腕の袖を掴んで、青年は今一番気にかかっている事項をぶつけた。
「パールは……どうなったんだ…………」
かちゃん、と水差しが食器にぶつかる音がした。
「……レスターさんが、お前の体調が完全に復帰してから話すっていってただろ?」
アレックスは運んできた水差しを元々置かれていたものと交換する。視線は真っ直ぐにトレイの上に向けられていて、ギルフォードへと向けられることはない。
「その様子ならあと二、三日もすれば元の通りなんだから、急いで聞く必要なんてないさ」
「嘘だ」
漸く回復してきた体力がじわじわと消耗されているのを感じながら、青年は今ここで引くわけにはいかなかった。
「今聞かなければ…………俺は、後悔するんじゃないのか。アレックス」
自分の中にある直感と基本的に情報は与えるだけ与えてから判断させるフォレスターが情報を抱え込んでいるという不自然な状況が、今の状況がただならないものであることを知らせている。
すると、漸くアレックスがギルフォードの方を向いた。
妹ほどではないが感情に富んだ青年が見せる、心の見えない凍えた表情が見上げる真剣な目線に晒された。
「俺から言えるのは」
苦しそうな声が唇の間から押し出されるように漏れた。
「お前はどのタイミングで知っても、知らなくても、確実に後悔する」
「なら」
青年は袖を掴む手に力を込めた。
「今、教えろ」
「できない……それに、意味がない。もう手を打つには遅い」
ふっと、色をなくしていたアレックスの頬に一筋の涙が流れた。
「どこで知らせてもを苛ませる事実。それならどんなに恨まれても、ののしられても、お前の回復を遅らせない方を俺は選ぶよ」
穏やかで、虚ろな表情。
パールに関する事実で彼が傷ついていないはずがないのを知っていてもなお、それはギルフォードの追及を躊躇させるのに十分すぎる悲しみを湛えていた。
力の抜けた手から袖を抜いたアレックスは、換えた水差しを手に身を翻した。
「大丈夫だ、ギル…………そう、遠くない」
残された言葉が、緊張から体力を削られたギルフォードの耳へ僅かに届いた。
白い翼の少女が漆黒の立方体の中へと横たえられる。
目覚めることのない彼女の表情はどこまでも純粋で、どこまでも幸せに満ちていた。
けれど、それすらも漆黒に飲み込まれていく……。
Fine.