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2010.1.17 【広】
Novel Stage / original:Abyss of Time
《不器用な優しさ》
「うーむ」
紫さんが机に向かって唸っている。その傍らには小冊子が何冊か積んであり、手元にある紙へ書き込むときに参照にしているようだ。
そしてぽつりと。
「もっと広い部屋が欲しいな」
言った途端、心さんがこけた。
「どうかしましたか?」
「ん? どうした心」
僕と紫さんが同時に言うと、心さんはわなわなと震えながら起き上がる。
「こ」
そして思いっきり叫んだ。
「これだけ広くてまだ何か文句あるんですかっ!?」
この部屋は大体普通の一軒家の仕切り壁を全部外したくらいの広さがあって、研究室としても十分に大きいものだった。
そう言われても紫さんは平然と返す。
「欲しい機材はまだまだあるぞ」
例えばこれとか、と小冊子を心さんへ示した。
表紙にあるのは、中に射撃訓練で使う的がいくつも出ている大きな部屋。どうやら屋内戦闘を訓練するための設備らしい。
「……紫さん」
「なんだ?」
「これは機材じゃなくて部屋そのものです」
半眼で睨みながら心さんは言う。
「うむ。だからもっと広く」
「共用施設としてでも申請してくださいっ!」
部屋一つを『機材』と言い張る紫さんに机を叩いて抗議する。
しかし、それに対しても紫さんは。
「嫌だ」
即答する。それも、とても苦々しい表情で。
いきなり表情の変わった紫さんに心さんは驚く。
「そ、そんなに嫌がらなくても……」
「この研究所の研究者は技術を語り合うにはとってもいいやつらだよ。私も大好きだ」
だがな、と、紫さんは椅子から立ち上がってこちらへ歩く。
「……戦闘に関してはどうも好きになれない」
歩きながら、吐き捨てるように言った。
「研究者の中には戦うことだけを追及するやつらがいる。
人造生命に戦うこと、そして殺すことへの快楽を植えつけるようなのがな」
絵本を読んでいた僕が座ったまま見上げると、側に立って僕の頭を撫でる。
「私はまあすずなが初めての製作で特殊な事情ってのもあるが、ただ戦うだけの戦闘マシンにはなって欲しくないんだよ」
「紫さん、戦うことが僕の意義です」
「もちろん戦うなってことじゃない。イレイサーから人を護る為に造ったんだ。
けど、私はね、すずな」
優しい微笑みが僕の目の前にある。
「お前にもっといろいろなことを知って欲しいんだ。
この世界を何故私達が護りたいのか知って、お前も心の底から護りたい、って思えるように」
言いながら僕の頭を撫でる紫さんに同意するように心さんが優しい表情を浮かべる。
「僕にはデータが足りないのですか?」
「そうとも言う。けど、こればかりは登録できるものじゃないからおいおい覚えてくれ」
「了解しました」
「おう」
ぽん、と軽く僕の頭を叩くと、紫さんはまた机の前に戻った。
そして。
「さーて、申請書書くぞー」
「ちょ、ちょっと待ってください。それとこれとは話が違います!」
また騒がしくなったのを横目に、僕はまた絵本を読み始めた。
「ということだ受け付けろ環!」
「却下」
Fine.