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2010.1.14   【王】

Novel Stage / original:Absoetia

《未来の王国》

 


 

 アブソエティア王国、王城。
「目指したい、国?」
「はい」
 いつものように守り役の青年と王子の勉学の時間が終わった時、青年は王子に宿題を出した。
「簡潔であるとか実現性に関してはとりあえず置いておいてください。王子が王として目指したい王国、それを教えてください」
 今まで出されていた宿題というのは、大体今までやってきた講義の予習や復習、補完といった明確なものだった。
 だが今回のことは講義の内容とはそれほど関係なく、また抽象的なもの。
「お答えは次回の勉学の講義の時にお聞きします。それでは今日はこれで終了とします」
「私が作りたい国……」
 十代半ばという年頃の王子は真剣に考え込む。
 講義の後片付けをしていた守り役は、その様子を表情には表さないが心配そうに見ていた。
 片付けが終わっても、その場を動こうとしない王子に一礼し、キルシェが部屋を出ようとしたとき。
「……大丈夫だ」
 ぽつり、と護衛の騎士が守り役の青年へ告げる。
「王子は聡い。それに、お前が教え続けているのだからな」
 周りの誰も気付かなかった青年の不安を、彼は気付いていたのだ。
「別に、私は何も言ってませんよ」
「そうか」
 悟られたことなど微塵も感じさせない態度で守り役は騎士へと言葉を返し、返された方も悟った様子などは出さない。
「……けれど、貴方が言うならそうなのでしょうね。ラート」
 ただ最後に告げられた言葉だけが、ラートの感じた気配に間違いがなかったことを教えた。

 数時間たっても、テルマ王子は悩んでいた。
「……誰も傷つかない、誰も泣かない……」
 口をつくものは沢山ある。ありすぎるがゆえに纏まらない。
 また、その一つ一つが大切なものなのだ。
 考えれば考えるほど欲しいものは増え、決められないことに対して苛立ちを隠せない。
 その時。
「なーに悩んでるの?」
 後ろから声をかけたのは、王城に似つかわしくない動きやすく簡素な服装の少女。王子よりはいくつか年上だろうか。
「……姉上」
「城下へ遊びに行かないかって誘いに来たのだけれど、どうもそんな雰囲気じゃないみたいね」
 アリシア王女は王子の正面に椅子を運び、机に両肘をつく。
「あたしも教育は受けた口だし、そんなに悩むなら相談してみない?」
「でも……」
 自分自身に出された宿題であるためか、王子は相談するのを躊躇う。
 しかし、王女は笑いながら言った。
「もちろん答えは言わない。それは自分で考えなきゃ駄目だしね」
 でもヒントくらいはあげるわよ、と、興味津々な目で弟を見ている。
 王子は知っていた。
 彼女がこの目になったらもう止められない、と。
「実は……宿題で、私が目指したい王国を考えるように、と」
「あ、私もそれやったなぁ……考えれば考えるほどわかんなくなっちゃうの」
「そう、そうなんです!」
 我が意を得たり、とアリシアの手を握り締めるテルマ。誰にも相談できなかった分、賛成してもらったのが嬉しいのだろう。
「うんうん。じゃあ約束どおりヒントをあげる」
 にこにこと笑っていた笑顔が、急に真剣なものになった。
「取捨選択か総取りか。どっちか選ぶといいわ」
「……?」
 真面目になった姉についていけずにぽかん、とする弟。
 力の抜けた手から自分の手を抜いたアリシアは、またにぱっと笑って。
「つまりはあんまり難しく考えるなってことなんだけど。あ、答えが決まったらあたしにも教えてね」
 そう言って、彼女は入ってきた時のように部屋から去っていった。
 残された王子は呆然としながら、何かを感じ取ったのか、悩んではいるが先程とは違う表情を見せていた。

 そして、次の講義の時間が来た。
「では、答えをお聞きしましょうか」
 真面目な表情で守り役の青年が王子に尋ねる。
 同じくらい真剣な表情で、王子は青年に答えた。
「私が作りたいのは……皆がこの国の未来を考えていける国だ」
「……その理由をお聞きしましょう」
「いろいろ考えた。平和であることや豊かであること、どれも必要なことだった。
 だが、どんなに必要なものでも私の考えで押し付けてはいけないんだ」
 少年は言葉を一度切る。青年の顔を見るが、彼は言葉の先を促した。
「この国は私だけのものではない。
 土台を支える民がいて、民を守る騎士がいて、騎士を纏める臣がいて、その上に私達王族がいるのだ。
 ならば、国の行く末を考えるのは私だけではなく、この国を支える全ての者達だ」

「だから、私が目指す王国は、国を支える全ての者が国の未来を考えることだ」

「……お見事です」
 緊張しながらも宣言した王子に、守り役の青年は拍手を送る。背後からも聞こえた拍手に振り返れば、手を叩くのは護衛の騎士と相談に乗ってくれた姉。
「これで、あっているのか?」
「この問いに正答などないのです。王子が自分で考え、独りよがりではない答えを出せることが大切だったのですからね。よく頑張られました」
 珍しくストレートな守り役の青年からの誉め言葉に、王子は照れた笑みを浮かべた。
「では、その目標のために今日も勉学に励んでくださいね。アリシア様は宰相殿がお待ちですよ」
「テルマが頑張ったんだからあたしも今日くらいはやらなきゃね。じゃ、また後で!」
 姉姫が自分の部屋へ戻り、今日も講義が始まる。


 Fine.


 

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