[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2010.1.11 【己】
Novel Stage / original:Abyss of Time
《ウティ》
「ねぇ、すずな君」
二人で研究所に向かう途中、心さんが尋ねてきた。
「すずな君が自分のことを紫さんの道具というのは、どうして?」
「僕は造られた物で、造ったのは紫さんだからです」
僕は何の疑問もなく答える。むしろ、何故尋ねられたのかが判らなかったくらい。
しかし、心さんはとても悲しそうな表情を見せた。
表情を変えてしまったことに、僕は思わず問いかけた。
「……何故ですか?」
「え」
「何故、悲しそうなのですか?」
すると、心さんはとても驚いた。足を止めてしまうくらいに。
僕は数歩歩いてからそのことに気付いて振り向く。
「どうしました?」
「……すずな君」
心さんは僕達の間にある数歩を埋めて、荷物を持っていないほうの僕の手を取る。
「すずな君は、どうして私が悲しい理由を聞くのかな」
そう、聞かれる。
僕は少し考えてから答えた。
「何か、言ってはいけないことを言ってしまったのかと考えたからです」
「それだけ?」
念を押すように心さんは言った。そこまで言われると自信がなくなってくる。
そして、気がついた。
僕自身、何故問いを発したのか判らないことに。
「……わかりません」
「そう?」
「はい……僕は、どこかおかしいのでしょうか?」
自分の行った行動の意味がわからないことは、今までなかった。
定期点検では異常が起こったという結果は出ていないが、それが現在正常であることの保証にはならない。
もしかしたら、先程のイレイサーと戦闘した影響が及んでいるのかもしれない。
しかし、心さんは首を横に振った。
「違うの。そうじゃないわ」
金色の瞳が真っ直ぐに僕の瞳を見ている。
「それが感情を持つということ。心のままに行動するということなの」
その勢いは、まるで戦いの時のように必死なもので。
心さんは一生懸命に僕へ何かを伝えたがっている。
「感情……?」
「そう。そして、それがすずな君がただの"道具"じゃなくて"人間"ということなの」
人間だと言われても、僕にはよくわからず首を傾げる。
「でも、僕は造られた物で」
「人造人間、なんだから、君も私も人間なんだよ。人が造った"人間"なんだから」
僕の言葉を遮って、そう、まるで泣きそうな声で心さんは言った。
「お願い。もう自分が道具だなんて言わないで」
何故、心さんがそのことに拘るのかはわからない。
けれど、心さんも僕と同じ人造人間なのに、紫さんを叱ったり、笑ったり、表情の起伏が豊かだ。だとすれば、人造人間にも感情や心というものはあるのだろう。
「わかりました」
こくん、と僕は頷く。
すると、
「よかった……ふふ。でもちょっと言い過ぎちゃったかな」
心さんはとても綺麗な笑顔で笑った。
「……紫さん、いつまで監視カメラ覗いているんですか」
「こんなおいしいところを逃さないわけないだろう!
すずなの自己認識が高まるのはイイコトだしな。うん」
Fine.
※ウティ(outil) フランス語で「道具」の意味。