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2010.1.10 【新】
Novel Stage / original:Abyss of Time
《終わりと始まり》
「それで、私を呼び出した用件はなんだ。巽(たつみ)」
私は所長室で、呼びつけた張本人を睨みつけた。
この部屋の主はいつも通り机に向かって人のいい笑みを浮かべている。
「天才の君ならわかっているんじゃないかな」
ふん、と鼻で笑って足を組む。
「研究なら進んでいるぞ。何の問題もない」
「本当に?」
「ああ」
あくまでこちらの態度が変わらないのを見ても巽の表情は変わらない。
「紫くん。菘(すずな)くんへの侵食は止まっているのかね」
そしてそのまま痛いところをついてくる。
「……微弱ながら進行中だ。このままだと、あれは文字通り消去されてしまうだろうな」
平行世界からの侵略者、イレイサーから一般人へのダメージは存在の抹消へと繋がる。そこにいること、いたこと、存在そのものを失う。
「そこで、だ」
巽は改めて肘を机につき、組んだ指の間からこちらを見た。
「君の本業を発揮して、存在だけは留めておけないだろうか?」
私は答えなかった。それは、私が想定しているうちの最後の切り札と同じ。
「君は現在治療にかかりきりだが、本業は錬金術師」
巽は言葉を続ける。
「人を造る研究者だ」
「……ああ、考えていたよ」
溜息を一つ吐き出しながら、私は漸く答える。
「人の精神をもつ人造人間。私が提出した論文だ。
けどな……記憶は残らないし」
思わず目の前に手を翳す。所長越しに差し込む太陽の光が遮られ、目の前が暗くなる。
「元の生活には戻れない」
「だが、このまま消えてしまえば私たちにすら彼は残らない」
勝手に聞こえてくる男性の声。
「その前に残る道はこれしかないのだよ」
「……ああ。そうだな」
私は手を下ろして立ち上がった。
「あとで必要機材の請求書を出す。高くても文句言うなよ」
「お手柔らかに頼むよ」
苦笑いを含んだ巽の声を背に、私は所長室を出た。
「お休み、菘……直に私が起こしてやるからな」
Fine.