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2010.1.8 【鮮】
Novel Stage / original:Absoetia
《鮮紅》
木箱が雑多に積まれている薄暗い地下室。
その真ん中で一人の少年が力を抜いて立っていた。
湿った空気の中に息遣いだけが響いているが少年のものではない。
荒く、時に唸り声まで聞こえてくる中で、身に着ける白い巻頭衣も肩ほどまでの白い髪もまったく揺れなかった。
やがて息音を生じさせているものがちらほら姿を見せる。
それは、黒く大きな犬。
元々狩猟用の飼い犬だったものが、年をとって餌を与えられず、痩せ細り、獣の本性を丸出しにしている。
久しぶりの新鮮な血肉。しかも量が少ない。早い者勝ちだ。
八対の飢餓の目は、全て少年を見ていた。
それでも狩猟の習性かまずは様子を見ていた。だが、我慢ももう限界だ。
「ウゥゥゥゥゥ……ガァッ!」
八匹はばらばらの方向、タイミングで少年に襲い掛かる。地を這うように、地を蹴りほぼ真上から、真っ直ぐに突っ込むなど、方法すら違う。
その牙が、爪が白を切り裂こうとした時。
鮮紅の瞳が、開かれた。
微動だにしなかった少年の左腕が素早く振り上げられる。
その指先が操る鋼線は地下室の床、壁、天井と部屋内部のほぼ全体に張り巡らされており、一気に引き絞られる。
障害物を利用した細い銀色の糸は、実際に子供が引いた以上の勢いがつけられている。張り詰めた弦が弾け、襲ってきた猟犬へと走り出す。
ひゅん。ぱしぱしぱしぱしっ。
湿った布が叩きつけられるような音が、連続で起こった。
続いてどさどさ、と何が落ちる音。水に落ちる音も聞こえる。
そして、全ての音が消えた。
少年は右の掌を天井に向けて呟いた。
「光よ。来て」
すると、薄暗い地下室に光が生まれた。少年の掌の上に、小さな光の珠が。
灯に照らされたのは細切れになった犬の破片。
少年の瞳のように鮮やかな赤がその足元を塗らしていた。
白い髪、白い巻頭衣にも同じ鮮紅が飛び散り、独特の鉄がさびたような匂いが地下室に広がっていく。
「……ふん、この程度か」
いつの間に現れたのか、初老の男が少年を眺めていた。
その視線は醜いものを見るような侮蔑がこもっている。
「まあ一匹も逃していないだけよしとしてやろう」
既に興味はなくなったのか、吐き捨てて階上へ上がっていく。
その背を少年が男よりも冷たい目で見ていた。
Fine.