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2010.1.5 【具】
Novel stage / original:Abyss of Time
《ツール》
「すずな君?」
僕がスーパーから出ると、心さんが声をかけてきた。偶々通りがかったのだろうか。
近付いてきた彼女に僕はぺこんと一礼する。
「こんにちは」
「こんにちは。また紫さんが何か無理を言ったの?」
心さんの視線の先には僕の持つエコバッグ。興味があるように見えたので、袋を両手で広げる。
中にはひき肉とたまねぎ、卵。
「……ハンバーグ?」
「はい。紫さんが食べたいとおっしゃったので、具材を買いに」
「やっぱりあの人のわがままなのね……」
頭を抱える心さん。
通常の場合、日常で必要なものは予め注文しておいて研究所『久遠の薔薇』に届けられる。こうしていちいち買いに出る必要はほとんどない。
「ま、まあいいわ。すずな君、お買い物はこれで終わり?」
「はい」
とりあえず復活したのか、スーツを直しながら心さんが改めて聞いてきた。
「じゃあ研究所へ戻りましょうか。送っていくわ」
「ありがとうございます」
僕は答えて、研究所へと向かおうとした時。
『すずな、聞こえるか?』
紫さんから連絡が入った。
『そこの近くにイレイサーが出たらしい反応があった。急で悪いが、片付けてくれ』
いつになく緊迫した口調が出現した座標を告げていく。
「了解しました」
袋を抱えたまま、僕は指示された座標へと走り出した。
心さんが慌てて追いかけてくる。
「ちょ、ちょっと、すずな君?」
僕は走りながらサーチの策敵範囲を広げる。ソナーのように広がっていく感覚の端に、イレイサー特有の反応が三つ。
「イレイサー確認」
スーパーがあった大通りから二本入った裏通り。
人気のない路地は足を踏み入れた途端、周囲がおもちゃが沢山ある広場へ変わる。
「エリア侵入しました」
「こういうこと、ね。紫さんもこちらにも連絡よこせばいいのに」
心さんがスーツの上着を脱いで、袖を捲る。僕もコートの腕の部分を広げた。
「モード〈アザゼル〉」
僕の左腕が先端から手首辺りまでが変形し、砲口を形成する。その先端には赤い光が蓄えられていき。
「ショット」
掛け声と共に、赤い球体から三つの光の筋が飛ぶ。くまのぬいぐるみとおもちゃの兵隊と三角帽子の人形へ。
赤い光が命中した途端、三体の人形はふわりと浮いて動き出す。
「グ、ググ……ッ」
「すずな君、ナイス!」
苦痛の声を上げる人形たちへ、右腕を剣に変形させた心さんが突撃、一気になぎ払う。 ぼろぼろになったところに僕がもう一度〈アザゼル〉を発動すると三体の人形は消え、周囲が裏路地へと戻る。
あたりを索敵したところで、紫さんへ連絡を取った。
「イレイサーを撃破。紫さん、確認をお願いします」
『OK、撃破を確認した。お疲れさん、すずな』
「はい」
『買い物も忘れずにな』
「わかりました」
通信を終えると、心さんが僕の方を見ていた。
「紫さん、何か言ってた?」
「消滅を確認したということと買い物を忘れないようにと」
「そこが重要なのね……」
腕を元に戻しながら、心さんは再び呆れた顔をしていた。
「嫌なら嫌って言っていいのよ、すずな君」
「いいえ。僕は紫さんの道具ですから」
「……そう」
そういった時、心さんはとても悲しそうな顔をしていた。
Fine.
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