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2010.1.1 【元】
《元気のすすめ》
Novel Stage / original stage:absoetia
どこまでも広がる大雪原。
しんしんと六花が降り積もる冬の情景。
そんな静かな雪の上を二筋の風が矢のように駆け抜けた。
ひゅん、と音を立てて描く軌跡は共に隣接した大小二つの円と四角。つまりは雪だるまの形である。
最後の一辺を引いた風は、既存の軌跡と交わるとその勢いが嘘のように止まり、再び静かな空間を取り戻す。
すると風と同じ方向から幼い兄弟が歩いてきた。
雪に足を取られる弟を兄が支えながら、風の軌跡を観察している。
「これだけ制御できれば十分上手だよ」
「そう、でしょうか」
よく見ると二筋の軌跡は片方が迷いなく綺麗な曲線を描いているのに対し、もう片方は図形を描いてはいるが、所々ぶれていたり雪が弾けていたりした。
「能力自体はそれほど違わないのだから、あとは集中力を高めていけばいいんだ」
後は時間が埋めてくれる。そう諭しながら弟の頭を撫でる。
しかし、彼は呟いた。
「わたしは」
視線を雪原に落としたままで。
「わたしは、にいさまとはちがいます」
それは弟が常に父親から言い聞かせられている言葉。
受け継がれる血によって発現する"理"という魔法のような能力。現在発現している中で最も能力の高い者が兄だった。
この特殊能力を重視する彼らの父親は、既に兄弟の区別をつけていた。
だが、それは大人の事情でしかなかった。
「そんなでは駄目だよ」
「にいさま?」
声を荒げることなく、ゆっくりと噛み砕くように話す。
「私たちはこの世界の"元"に語りかけて、その力を貸してもらっている」
俯いた視線にあわせてしゃがみ、兄はしっかり目を合わせる。
「その為に必要なのは血だけではない。一番必要なのは"元"が大好きな"気"なんだ」
「だいすきな……?」
「そう。"元気"、という」
微笑を浮かべながら。
「だから私との差なんてないようなものだよ。一番大切なものは心持ち、なのだからね」
「……はい」
沈黙の後、弟は小さく頷いた。
それを確かめてから兄は立ち上がり、寒さで赤くなった手を引いた。
「それではそろそろ戻ろうか。風邪を引かないうちにね」
「はい。にいさま」
兄はもうすぐ弟が養子に出されてしまうことを知っていた。
能力の低さではなく、体が弱い為にその能力を活かしきれないという理由で。
だから。
「今だけではなくて、ずっと、忘れないで」
伝えたい言葉を、伝えた。
Fine.