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2010.1.4 【簡】
Novel stage / original:Absoetia
《みなものしたで》
アブソエティア国、王都にて。
「チェックメイトです」
「ま、また負けた……」
「前回よりは成長しておりますよ。ただ二十三手目が少々甘かったですね」
王子が守り役の青年を相手にチェスをして数十度目の敗北をきしたところだった。
王の方針から、こういった勝負事に対してこの守り役は一切手を抜かない。毎回素知らぬ顔をして容赦なく叩きのめす。
「攻め込むことに関してはかなり上達しております。守りは今一歩というところですね」
「攻めてるうちに忘れるのは悪い癖だな。ありがとう、キルシェ」
「いえ。それでは失礼いたします」
このあと用事がある為、チェスセットを片付けた後一礼して去る青年。
廊下を歩いていく背を見ながら王子は側にいた護衛の騎士に話しかけた。
「ラート、キルシェってチェスも強いんだな」
この騎士は守り役の青年と士官学校の同期に当たり、王子は各々に互いのことを聞くこともある。もっとも、多くの場合、あまりにも完璧に見える守り役の青年についての話になるのだが。
「昔からそうだったのか?」
「いいえ。こちらで守り役を務めるようになってから覚えたようです」
「スタートラインはほぼ同じなのか」
かけた時間の差ではないと知って、少々落ち込み気味の王子に騎士は言葉を繋いだ。
「キルシェは集中力が高いのです。活動できる時間が短いですから」
白い髪に赤い目。典型的なアルビノの青年には時間制約がどうしてもつきまとう。長時間、陽の光を浴びることは危険な上に視力の問題もある。
「う……でも流石にそこをつくのは卑怯だしな」
どうしようもない生まれた時の差まで持ち出すことはよしとしない王子の態度に、
「時間をかければ、王子が追いつくのはそう難しいことではありません。焦る必要はありません」
「そうだな。努力してみるよ」
王子は本棚からチェスの指南書を取り出し、机の上に広げた。側にあるチェスの駒を動かしながら自分で読み込んでいく。
ラートは微笑ましく眺めながら、その光景に王子がチェスをやると知って深夜に同じようにルールや戦術を覚えた友人が重なった。
なんでもないように装いながら、彼は一週間で覚えてみせた。
本当は酷く苦労しただろうに気配すら感じさせないのは既に癖の域に入っていると苦笑しながら、時折発せられる質問に答える。
今日も何事もない午後が過ぎていく。
Fine.