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2010.1.15   【光】

Novel Stage / original:Willwart

《博物館の怪談》


 


 

 新月の深夜。
 白翼を持つ少女が宝石博物館という建物の前に立っていた。
 この博物館は空中都市の中でも少々変わっていて、内部では数々の宝石が展示されているというが一般に公開はされていない。一年に一度、都市を運営する評議会の代表が訪れるだけだ。
 内部が公開されていないだけに博物館については様々な噂が飛び交う。
 いわく、夜になると宝石たちが館の中を飛び回っている。
 いわく、昔盗みに入って失敗した盗人の霊がさまよっている。
 いわく、ある廊下を通ると誰もいないのに話し声が聞こえる。
 そして不思議なことに、代表が訪れる前日の夜だけ、厳重に警備されている博物館から警備が消える。
 このチャンスを見逃さないのが子供達。肝試しと称して、その夜にこっそりと噂を確かめに忍び込む。
 少女も好奇心に駆られてやってきた一人だった。
『いいか。何かあったら直に呼ぶんだぞ。兄ちゃん絶対に駆けつけるからな』
『うん。じゃあいってくるね、アレクおにいちゃん』
 家を抜け出す時に見つかった兄の必死な様子を思い出し、少女は静かに潜り戸から博物館へと入っていった。

 きょろきょろ。
 周囲を気にしながら、少女は大きな廊下を歩いていく。そこには大きい絵画や彫像がおいてあり、名前の元となっている宝石はおいていない。
「ここじゃないのかな」
 小さく呟く。
 暫く進むと廊下の先にはホールがあった。二階までが吹き抜けで、その上はガラス張りのドーム状の天井になっている。
 月のない今夜は届く光は星の光しかない。
 弱い光に照らされ、それでも存在感を見せる握りこぶし大の石が、ホールの外周に添う形で十個ほど展示されていた。
 一つ一つに台座があり、この暗がりでは読めないがその石の名が書かれた金属のプレートが設置されている。
「きれい……」
 少女は一番手前側にある石の台座に近付いた。
 途端。
『……な……ぎ…………もう……』
「ふぇ?」
 微かに男性の声が聞こえた。
 慌てて周囲を見回すが、誰もいない。正面にある青い石にも何の変化もなかった。
「だれか、いるのかな?」
 人の姿は見えないが明らかに声は聞こえた。しかし、この状況で少女は何故か恐怖を感じなかった。
 少女は別の石の前に立つ。そこに展示されているのは白い真球。
『かわい……嬢……聞こえ……しら』
 今度は少女と同じくらいの年頃の女の子の声が聞こえる。先程よりは明確に。
「いっぱい、いるの?」
 少女は不思議そうな声を上げる。
『皆……かけ……そうしたら……るわ』
 まるでその問いへ答えるように再び女の子の声が聞こえる。
「みんな……ぜんぶのいしさんをまわればいいのかな?」
 途切れ途切れの言葉の中からわかる言葉をとらえ、少女は次の石の前に立つ。
 今度は真紅の六角柱の形をした石。
 ところが、今度は何の言葉も聞こえない。
「ちがったのかなぁ」
 首を傾げながら、その隣の石へと向かう。
 次の石は透き通っていて、形状は他のものと違い複雑な薔薇の形をしていた。
 天上から差し込む光を受けながら、まるで内側に光を閉じ込めているようにも見える。
『こんばんは。可愛いお嬢さん』
「ふぇ、こんばんわ」
 今度は大人の女性の声。それも今までの中で一番はっきりと言葉が聞こえた。
『私の声が全て聞こえているのかしら』
「う、うん。きこえてるの」
『そう……』
 石と会話をしている。不思議な状況を少女は自然と受け入れていた。
『貴女のお名前はなんというのかしら?』
「パールはパール=メロウっていうの」
 優しそうな女性の声に彼女は素直に答える。
「おねぇさんはなんというおなまえなの?」
『……聞きたい?』
「うん。しりたいの」
 少女は目を輝かせて言う。
『いいわ……教えてあげる。でも、先にまだご挨拶していない他の石達のところへ行ってきてくれるかしら?』
「うんっ。わかった」
 女性の言葉に少女は他の石の前にも順に立った。
 石達は男性だったり女性だったり、また子供であったり大人であったりと言葉から様々な印象を受ける。
 だが透明な薔薇の石の女性ほど、その言葉が明確にきこえたことはなかった。
「ただいま。ごあいさつしてきたの」
 ぴょん、と音がしそうな勢いで少女は戻ってきた。
『おかえりなさい……そうね。じゃあ教えてあげる』
 きらきらした少女の瞳に映りながら、透明な薔薇の石は静かな星の光に包まれ、その名を告げる。
『私の名は"悠久の輝き"ディアナ=ラ=ディアマンテ。覚えられたかしら?』
 長いためか少女は何度か口の中で呟いてから、
「"ゆうきゅうのかがやき"ディアナ=ラ=ディアマンテ。うん。おぼえたの」
フルネームをしっかり言って微笑んだ。
『いい子ね。貴女のような可愛いお嬢さんが継承者でよかったわ』
「けいしょうしゃ?」
『ふふ……後でわかるわ。さぁ、もう遅いからお帰りなさい』
「……? わかったの。おやすみなさい、ディアナ」
『お休みなさいパール。よい夢を』
 女性に促され、少女はぱたぱたと広い廊下を駆けていく。忍び込んだことなどすっかり忘れてしまっているように。
 ホールの中には静寂が戻った。

 数日後、"悠久の輝き"と呼ばれる透明な薔薇はパールへと送られることとなる。


 Fine.



 

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