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2010.4.2 【龍】
Novel stage / original:Abyss of Time
《異形のモノ》
それは僕が検査を終えて、研究所の中を歩いていた時に見つけた。
たまたま開いていた自動ドアの向こう。そこは別の研究室の実験中だった。
大人の獅子ほどの大きさを持つ人造物。
鋼の装甲を纏う四足の獣が硬質なガラスの眼でシミュレーターのイレーサーを睨みつけて、タイミングを見計らって飛び掛る。
鋭い爪が幻影を切り裂き、長い牙が幻影を抉り、太い尾が幻影を打ち据える。
「……すごい」
完全に戦うことだけを考えられた人工生命がそこにはあった。その無駄のない美しさに僕は見惚れて立ち尽くす。
するといつの間にか目の前に男性が立っていた。
「ほう。あの小娘の人形か」
三十代くらいの白衣を纏った研究員。この人も紫さんと同じで現代の錬金術師と呼ばれる一人だ。
「俺の"龍"を見にきたのか。作成者に似合わず本質をわかっているな」
僕のように人型の人工生命は"人造人間"と呼ばれるが、不思議なことに人型以外の人工生命は"龍"と呼ばれる。
最初に人型以外に造られたのが龍型の人工生命だったことが由来になったらしい。
そして紫さんは"龍"があまり好きではないと言っていた。
あれはただの殺戮機械でしかない。生命ではないと。
じろじろとこちらを見る研究員へ僕は頭を下げる。
「通り過ぎただけです。お邪魔しました」
そのまま紫さんの研究室へ戻ろうとしたら、腕を掴んで停められた。
「何、折角だから性能試験でも受けていけ」
顔には笑みが浮かべられてた。けれど、紫さんとか心さんがするような笑みとはどこか違う。
検査の結果を紫さんが待っているので早く戻りたかったが、中から出てきた四足の"龍"が廊下を塞いでいた。
僕にはこの研究員を傷つけずに抜け出す方法がわからず、腕を引かれるままに彼の研究室の中へと入っていった。
訓練用の部屋の中で、僕は何度となく壁や床に叩きつけられる。
先程イレーサーが食らっていたように、切り裂かれ、抉られ、打ち据えられ。
僕にはまだ戦闘についてのデータはない。無論、自身のデータは入っているが、戦闘における身のこなしや戦い方は入っていないのだ。
あとは"龍"の動きから学び、データとしていく。
三種類のレンジの違う攻撃をしてくる"龍"は戦闘の間合いや長所、短所を覚えるのにはもってこいの相手とも言えた。
「やはり小娘の人形では、俺の"龍"にはかなわないようだな」
さっきと同じ笑みを浮かべて研究員の人が言う。なのに、周りの助手の人は妙に慌てていた。
「さて、もっとやってやれ!」
そう男の人が言って、"龍"が僕に飛び掛ってきた時。
「ふざけるな」
いつの間にか紫さんが研究員の後ろに立っていた。そして、思いっきり右足を上げて腰辺りを蹴った。
「ぐっ」
男の人はバランスを崩して前のめりに倒れる。咄嗟に創造主を守ろうと駆け戻った"龍"は、紫さんが投げた白い網のようなものに絡み取られた。
そして、はき捨てるように言った。
「……今度は潰す。まとめてぶっ潰す」
静かだけれど、とても怒っているように見えた。
「戻るよ、すずな。心が心配している」
自動ドアのところで振り返ったゆかりさんは、何事もなかったように僕へ笑いかける。男の人とはやはり違う笑み。
「はい。わかりました。遅れてすみません」
「いや、気にするな。これはお前のせいじゃない」
僕が追いつくと、今度は紫さんがどこか悲しそうな顔をする。
「……結構、怪我したな」
「すみません」
「だからお前のせいじゃないよ、すずな。すぐ直してやるから、安心しろ」
「はい」
そして、僕たちは紫さんの研究室に戻った。エネルギーが足りなかったせいか、僕は戻った途端ふらふらとし始めた。
慌てた心さんが僕を介抱しながら、紫さんの話にやはり怒っている。
「……すいません」
ふらふらした意識の中でそう謝ると、二人とも悲しそうな顔をしたのが印象的だった。
Fine.