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2010.3.27   【奇】

Novel stage / Fun Fiction:DFF

《Trickster》


 


 

 誰もいない都市の廃墟。
 そこではコスモスの戦士達が集い、束の間の休息を得ていた。
 強行軍が続いたために疲労が蓄積していた為、休めそうな建物があるこの世界で数日休むということで話がついていた。
 彼らは睡眠を取ったり、おのおのの戦い方を論じたりと思い思いの時間を過ごす。
 仮に宿としている建物の中でオニオンナイトと話していたティナは、外から入ってきた二人に声をかけられた。
「ティナ!」
 笑顔で手を振るのはバッツとジタンだった。
「二人ともどうしたの?」
 不思議そうに少女が聞き返すと、入ってきた勢いのままに二人が口々に言う。
「手伝って欲しいことがあるんだ!」
「やっぱりこういうのの助手はレディでないとな」
 妙にはしゃいでいるのとは対照的にむっとしたのは少女と話していた少年。
「ティナに何をさせる気なのさ」
 その目がきつく睨んできた為に、バッツとジタンは詳しくは言えない、と前置きしながらこう言った。
「この街、小さな劇場があるんだ。そこでちょっとしたショーをやろうと思ってさ」

「レディースアーンドジェントルメーン!」
「これからトリックスターズによる舞台の始まりだぜ!」
 月明かりと舞台の両端に立てられた篝火だけが照明の中、盗賊と旅人は目の前の観客達へと一礼する。
 服装は普段と違い、青一色のヴェネツィアマスクに同色のマントに正装の軍服のような飾りのついた服。肩の止め具にも装飾品がついている。残っていたのは劇場だけでなく、それに付随する舞台衣装などもあったらしい。
 挨拶に呼応して、ぱちぱちぱち!という拍手と指笛が吹き鳴らされた。
 観客は旅の仲間達だけ。出番までは見ていていいよと言われているので、ティナも客席に座っている。興味なさそうな数人を除いては、皆何が起こるのかを楽しみにしている。
「じゃ、まず小手調べから行くかな」
 ひょいっとジタンが両手を広げ、客席の方へ向けた。ひらひらと振って何も持っていないことをアピールする。
「ほい、バッツ!」
「お、さんきゅー」
 その手が一度握られ何かを投げる動作をすると、途中で彼の腕ほどの棒が出現しバッツの手の中に納まった。
「今、何もなかったよね」
「バッツがいつもみたいに作ったんじゃない?」
 微かな不思議とまったく不思議に思わないという声。その声へ応じて旅人は受け取った棒を握った拳の中に押し込むと、ばっと客席に向けて手を開く。
「まずは華やかにいかなきゃな!」
 そこには既にロッドはなく、代わりにいろとりどりの紙吹雪が振り注いだ。彼が作り出したものではない証拠に、短時間に消えることなく皆へ降りかかる。
 ここで初めて驚きの声が上がった。
「うわっぷ! どっから出たんだ!」
「受け取った時には確かに何も持ってなかったはずだが……」
 にやり、と笑う舞台上のトリックスターズ。
 バッツは一瞬マントの影に手を回すと、戻した時に掴んでいたのは先程と同じ黒いロッドだった。それは真ん中に金色の筋があり、それを剥がすとロッドは一枚の黒い紙になった。紙を円筒形に丸めたものだったのだ。
「次に行くぜー!」
 旅人が上を少し残すように鉛直方向へ紙を折る。その隣ではジタンが彼の掌ほどの硬貨を皆に見せていた。もう一度、今度は水平方向に三つ折にすると、上に余白を残した袋状の部分のある長方形が出来上がる。
 バッツがそれを逆さに振って何も入っていないことを見せた後、ジタンが見せていたコインをその中へ入れる。とさっと軽く落ちる音がした。
 そして袋の上部分に当る所をしっかりと折る。
「おーい、フリオニール。ちょっと確かめてくんない?」
 折った紙を手にしたジタンは、身軽に舞台を降りると下部分の方を義士へ差し出す。フリオニールがその部分に触れると、確かに中で固い感触がする。
「ちゃんとコイン入ってるよな?」
「ああ、あるな」
 頷くのを確認して、ジタンは他の八人にも硬貨の入った紙を見せる。そして。
「じゃ、こうしたらどうなるでしょう?」
 全員の目の前でいきなりびりびりと紙を破きだした。
「そりゃあ、コインだけが残るんじゃ……」
 目の前のフリオニールが言いかけた言葉が止まる。破いた紙の中からは、何も出てこなかったのだ。
「あっれ、おかしいなー?」
 ぱっと千切った紙を落としてジタンが首を捻る。
「なーバッツー。コイン知らないかー?」
 舞台上に立っているバッツに声をかけると、彼はこう答えた。
「何言ってんだ。お前、今持ってるだろ」
 指差した先にはジタンの尻尾。その先にはまったく同じ硬貨が光っていた。
「お、わりぃな」
 ぴん、と弾いて硬貨を掌で受けると、盗賊はくるん、と舞台へ戻る。その途端、客席がわぁっと騒ぎ出した。
「なあ、今の何やったんっスか!?」
「た、確かに中に入ってたんだが」
「すごい……」
「ほらほら、まだショーは続くぜー!」
 不敵な笑みを浮かべたトリックスターズの奇術は時に観客を巻き込んで続く。それはコインやカードを用いたものであったり、読心術のようなものでもあった。
 それは魔法というものの存在を知っていても謎に満ちた、奇術というもの。
 普段子供らしいところを見せないオニオンナイトですら目を輝かせる、そんな時間が流れていった。
 けれど、楽しい時は永遠ではなくて。
「さて、今日の最後のイベントと行くぜ!」
「ティナ、お手伝い願えますか?」
「ええ」
 バッツが皆へ呼びかけると同時に、そっと手を差し伸べたジタンがティナを舞台の上へと引き上げる。
「最後はそれに相応しい大掛かりな奇術!」
「ここにおわします素敵なレディが一瞬にして消えてしまうというものでございます!」
 トリックスターズが少女の両脇に立ち、改めて一礼する。
「……あ、別に次元の狭間に放りこんだりしないぞ?」
「異世界とかに吹き飛ばす気もさらさらないんでよろしく」
 不安そうな観客へ困ったように二人が言うが、どうみても逆効果にしか見えない。
 余計に不安とごく一部に苛立ちを交えた雰囲気に苦笑しながら、バッツとジタンは黒い幕をティナの前においてするすると引き上げていく。
 これで少女の姿は客席から見ることができない。
「ではここで魔法の呪文!
 ちるちる いるむす さいく なうと めいず ろーくす でぃむえるすー!」
 バッツが幕を持っていない方の手を振って、大げさに謎の言葉を呟くとぽん、と言う音が幕の向こうから聞こえた。
 ほぼ同時にトリックスターズは幕から手を離す。
 すると……黒い幕の向こうに緊張しながらも微笑んでいた少女の姿は影すら残っていなかった。
「消えた……!」
 今までで一番強い驚愕の表情が観客全員の顔に浮かんだ。
「なんならここまで来てみるかい?」
 ジタンがにやり、と笑って、エスコートするように客席へと手を差し伸べた。好奇心旺盛なティーダやティナを心配するオニオンナイトが真っ先に、それから関心の高さを表すように結局全員が舞台上へとあがる。
 幕が落ちている辺りをきょろきょろ見回すが仕掛けの痕跡すら見えない。ジタンはともかくバッツの影には隠れられるかもしれないが、彼の後ろにもマントの中にも少女はいなかった。
「一体どこに?」
「何にもない……」
「気はすんだかな?」
 何の手がかりも見つけられないまま、観客達は再び客席に戻される。
 そしてトリックスターズは再び黒い幕を広げて影を作る。
「さて、それじゃティナを呼び戻すぜ!
 もるけす もるけす えいど すてぃむ なーふぇいどー!」
 大げさな振りと共に謎の呪文が唱えられ、幕の向こう側にきらきらと輝きが落ちる。
「ていっ!」
 今度は二人同時に黒幕を空へと放り投げる。
 すると。
「じゃ、じゃーん」
 少し照れたように笑ったティナが、両手をぴっと上げて立っていた。

 一際大きな歓声があがったのは言うまでもない。


 Fine.


 

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