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2010.1.27   【時】

Novel Stage / original:Abyss of Time

《定められた時》


 



 

 研究室へ来るときに限らないが、心さんはどんな服装をしていても必ずつけているものがある。
 それは時計。
 形は腕時計ではなく懐中時計。普通のものより二回りは大きくて、頂点についた金色の細い鎖は心さんの首にある継ぎ目の見えない金環へと繋がっている。
 本体も金色で、蓋を開けると、文字盤には数字がなく細かい目盛りだけが刻まれていて、おそらく「12」に当たるところだけが線が長い。針も一本しかなくて、かなり長い時間で一目盛り動くかどうか。
 蓋の中を初めて見せて貰った時、僕は尋ねた。
「心さんにはその時計が読めるのですか?」
 すると心さんは苦笑しながら首を横に振る。
「私にもわからないわ。でも私が生まれたときには既に首にかかっていたの」
 そう言うと蓋を閉めて、スーツの上着の中へしまう。
「ただ、紫さんが調べたところだと、壊れているわけではないようなの」
「外せるのですか?」
 継ぎ目を見つけられなかった僕はもう一つ不思議だったことも尋ねる。
「いいえ。外せないわ。でも調べるだけならX線とかいろいろあるから」
 しまった胸ポケットの上に手を当てて、心さんは少し俯いて言葉を続ける。
「紫さんによると、この時計は十八年の時を刻む為だけにあるそうよ。そして、その時を刻み終えるまであと一年あるかないか……」
 確かに先程見た針は普通の時計で言う「11」くらいの位置を指していた。
「……その時が来たら、私はどうにかなってしまうのかもしれないわね」
 心さんはとても寂しそうにいう。
 僕は無意識に隣へ座っている心さんの手に触れた。
「大丈夫ですか?」
 すると目の前の顔がとても驚いた顔をした。
 そしてすぐ優しそうな表情に戻って、僕の頭をぽん、と軽く叩いた。
「私は平気……そうね」
 特に何の表情をしているわけでもない僕へ、心さんは悪戯をするときのような微笑みを浮かべる。
「もしも私に何かあったら、すずなくんが助けてね」
「助ける……何をすればいいのですか?」
 何かあったら、というのが漠然とし過ぎていて僕は首を傾げる。
「その時にならないと私にもわからないけれど、例えば」
 心さんは立ち上がりながら、膝の上にあった僕の手を両手で握って言った。
「もしも私が暴走したら、止めてね?」
 それは僕の作られた目的にも沿っていたので。
「はい。わかりました」
 躊躇うことなく頷いた。

 あの時だったから、頷けた。


 Fine.

 

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