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2010.2.4
【虎】
(Novel stage / Fan Fiction:LοV)
《違う世界》
人間が人間を狩る魔の都。
同じ人間でも、いや、同じ人間だからこそ気を許してはいけない。
隣人は、たやすく己を狩る狩人になりはてるのだ。
会うもの全てに刃を向けよ。
その名、バーサーカーの字にふさわしき振る舞いを――
「いたいのいたいの、とんでけー」
澱んだ暗い路地を、一瞬にして暖かい光が包み込んだ。それは傷だけではなく、路地の如く澱んだ何かをも消していくような……。
「いたいのいたいの、とんでけー」
徐々にではあるが、痛みが消えていく。
それでも失血で揺れる視界に、手を翳して集中していた青年の姿が映った。
「何を……している」
女性はかすれた声で尋ねる。決して大きな声ではなかったが、間近にいた青年へは届いたようだ。
「あ、起きた?」
そう返しながら、彼は女性の足を見ている。
「ちょっと待ってね。もう一個大きいのだけ治すー」
もう一度手を翳したのは、走っているうちに引っかけて裂けたであろう右の太股に走る傷。
女性は気付くと改めて痛みを感じた。
「いたいのいたいの、とんでけー」
ふわり、と傷が暖かいものに包まれる感覚。気付いた痛みが薄くなっていく。
塞がるのを確認したらしい青年は女性と目を合わせるように向きなおり、
「大まかなところは治したから、まだ痛いところがあったら言ってねー」
意識を失うまでと変わらぬ笑みを浮かべて言う。
女性は再び問う。
「何故、助けた」
「ん? 追手に関しては完全に向こうの自業自得だよー」
襲ってきたら身を守るよね、と当然のように言う。青年が話を振った為、その後ろで先程もいた男性が頷き、周囲を警戒しているのが見えた。
「ならば、何故治した」
「それがちょっとお願いがあってー」
照れたように頭をかく青年。
「私達、ここどこかわかんなくてさ。教えてくれないー?」
ちょっと街で道に迷いました、そんな調子で手を合わせて拝む。
それは女性が生き抜いて来た道とはあまりに違いすぎて。
「……ふ、ふふ……」
ずっと警戒し続けてきたのが酷く馬鹿らしいものに思えて。
「え、えっと、おねーさん大丈夫……?」
女性は、おずおずと尋ねてくるのも、鈍く伝わる痛みにも、気付かない振りをして。
ただ、笑いが止まらない。
「ふふふ……そうか、そんなものか……」
「え、あ、うん。特に他の目的があったわけじゃないんだけど」
笑い続ける女性の頭の側に座っている青年は、困ったようなよかったような、そんな表情をしていた。
「まあ、元気になったならいっかぁ」
結局判らず諦めたのか、彼は立ち上がる。
「もうちょっと休んでていいよー。でも黙っていなくなるのはなしねー」
「ああ、手当ての礼位はしよう」
表情の安らいだ女性は、漸く笑みを収めた。
しかし、青年が水場の近く、木々に近い位置まで歩いていった途端。
男性が何かに気付いたように青年の方へと走り出した。
「……待て、行くな!」
それから数瞬遅れて、女性が痛みをこらえながら声を上げる。
声に応え、青年は咄嗟に襲ってきた翼持つ人影から奪った錫杖を構えた、が。
ざしゅ……っ!
完全に構えることまで予測された巨大な鉄の爪が青年の胸元を抉った。
ついで対の爪も迫るが、それは駆けつけた男性が弾く。彼は反撃には移らず、まず一撃を受けた青年を背後へ回す。
攻撃に遅れること、僅か。
武器の使い手である二メートルを超える巨体が現れた。
がっしりとした肉体。肩当と爪と一体となっている手甲以外の装備はないが、いらないのかもしれない。
その頭部は紛れもなく虎のそれと同じであったから――
To be continued...