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2010.12.2   【闘】

Novel Stage / original:Abyss of Time

《Mode:Lycoris》


 



 

『ミッションセット。標的の全滅』
「ミッションセット。標的の全滅。受領しました」
 おおよそ小学校の体育館ほどの広さがある、『久遠の薔薇』の建物の中でも南側に建てられた戦闘訓練棟。
 何度、ではきかないほど通ったこの場所に、僕は船の中から救出された後初めて立っていた。
 何もない時であれば職員のレクリエーションの場所としても解放される広く平らな床にはメッシュ状に切れ込みが入っている。コンピュータ制御でランダムに標的を出現させるための機構だ。
『準備はいいか。すずな』
 壁に取り付けられたスピーカーから紫さんの声がする。紫さんは離れた位置に設置された半透明の壁の向こう、制御する機材の側に立って僕と向き合っていた。
「はい」
 紫さんの険しい表情を真っ直ぐに見返して、僕は頷いた。
 珍しくもなんともないはずの戦闘訓練に、他の研究室の人間まで集まっている。紫さんの同僚である錬金術師、助手、そして、施設の管理者である徹さんの代理人。
 イレイサーの世界から戻ってきた僕は、彼ら全ての興味の対象であり、恐怖の対象だった。心さんと思われている人造人間の事件が拍車をかけていることも知っている。
 だからこそ、今ここで証明する。
 僕が誰のために闘うかということを。

『ミッション、スタート』

 瞬間的に飛び出す標的は全部で五体。ほぼ僕を重心とした正五角形の位置に出現し、うち右前と左後の反応は人間と酷似している。残りの三体はイレイサーと似た反応だ。
「モード〈グレムリン〉」
 散弾を打ち出す機構へ腕を変形させつつ、まず腕を上へ向かって振り上げ、五体の足元に向けて射撃。当てるのではなく足止めのためだ。
 後方からの追撃を避けるために弾の後を追って前方へ駆け出す。その間に目視で確認。右前方は確かに人間、正確には人間相当の標的で、左前はイレイサーの標的。
 二体の間を一気に駆け抜けながら左側のイレイサーへ三発。振り返ると同時に、真後ろの方向に立っていたイレイサーへ同じく三発。
 これで残りのイレイサーは一体。
 変形させていないほうの腕で今横を駆け抜けたばかりの人間の標的を確保。射撃を止めることなく、現在位置から左前にいるイレイサーから右前にいる人間への攻撃を打ち落とす。
 イレイサーの攻撃が止むと同時に僕も一度射撃を止める。
「モード〈ベヒーモス〉」
 次の攻撃が発せられる前に僅かだがチャージをかけ、エネルギーの膨れ上がった一撃で残りの標的を仕留める。
 すると残っていたイレイサーと人間の標的が一気に消えて、また別のイレイサーと人間の配置がしなおされた。
 次のステージに入ったのだ。
 イレイサーの配置、人間の配置。そこから導き出される最適の解を一瞬で導かなければならない。
「僕が……やらないと」
 紫さんのためにも。何も知らない人たちを護るためにも。
 そう思って、動き出した瞬間だった。
『紫さん! 何やってるんですか!?』
 スピーカーの向こうから聞こえてくる騒ぎ。そして唐突に増える人間の気配。
 半透明の壁の向こう側から人が来たのだ……紫さんが、僕の目の前にいる。
「……紫さん」
 配置のままの構成では紫さんが攻撃に晒される。もちろん、訓練で死ぬような攻撃が発せられることはないが。
 もし、実戦なら?
「下がって!」
 僕は咄嗟に紫さんとイレイサーの射線上に割り込み、他の人間の標的へも攻撃されないように威嚇射撃を行う。
 だが、僕自身へ放たれた攻撃までは受け止めきれない。
 放たれた光の二筋が貫くのは変形していないほうの腕。なんとか攻撃力の低下は避けられたようだ。
 再び散弾を打ち出すように腕を変形させて牽制をこめて打ち出す。だが、今度の人間の標的の行動パターンは反撃。
 牽制を打ち込まれているイレイサーへと近付く人間の足元へも一発打ち込むと僕は一気に接敵した。
「モード〈ミドガルズオルム〉」
 弾ではなく光の鞭を作り出して振るう機構。一気に振り回して近かったイレイサー二体を薙ぎ払うと一度バックステップ。
 その間に僕の後ろについてきていた紫さんが残ったイレイサーの方へと近付く。
「紫さん!」
 まるで散歩をしているようなゆっくりとした足取りに、僕は走って追いつく。けれどこのままでは紫さんと人間の標的を同時に守りきれない。
 また僕が更に被弾するのも危険だ。
 その時、僕は自然と口にしていた。
「モード」
 紫さんが取り付けたものではないと知っていながらも、ごく自然に受け入れていた機能を。
「〈リコリス〉」
 まるで彼岸花のように赤く細い光が何十本も全てのイレイサーの足元から伸び上がり、反応する暇すら与えずに標的を包み込んだ。
 後には、何も残らない。
 この訓練場の舞台に上がっているのは僕と紫さんと人間の標的だけ。
「ミッションコンプリート、です」
 僕は目の前にいる紫さんへと告げた。イレギュラーはあったものの、紫さんを含めた人間は全て護り抜いた上でイレイサーの標的を片付けた。
 けれど、振り返った紫さんは。
「……そうだな。見事だよ、すずな。私の想像以上に、な」
 厳しさと悲しさが入り混じった複雑な表情で僕を見た。


 Fine.


 

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