[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2010.11.17 【誌】
Novel Stage / original:Abyss of Time
《Animus》
ぱらぱらぱらとページが捲れる音が断続的に響く『久遠の薔薇』資料室。
英語や日本語の科学、工学、医学などに関する多種多様な本や雑誌が司書の資格を持つ職員によって整理されている。研究所に篭ることの多い研究者や職員達の要望で所謂錬金術に関係しそうなものだけではなく娯楽としての漫画や小説、ファッション雑誌なども置いてある為、性質として資料室というよりは図書室に近い。
実際に僕の前では有名な女性ファッション雑誌を捲っている人がいる。紫さんとここの司書である悠(はるか)さんだ。
紫さんはここの研究者の中で最年少だが、悠さんは職員で最年少で紫さんの次くらいに若い。若草色のエプロンとお気に入りだというライトピンクのシュシュがトレードマークだ。
二人は資料貸出・返却カウンターの側にある閲覧スペースで数冊の雑誌を机に広げて覗き込んでいる。
「ふむ。これなんかいいな」
紫さんが一つ指差して、思案げに指を顎に当てる。対する悠さんはとても形容しがたい表情を浮かべた。
「……紫ちゃん、学会に着ていくって言わなかった?」
「だからこれに白衣で」
指の先にあるのはショートのデニム地の一見短めのワンピースに見える服。ただ下半分はスカートではなく短パンだ。
色は空色なので白衣とは合う。
「確かに紫ちゃんには似合いそうだけど……怒られない?」
「前と違ってスカートじゃないから文句を言われる筋合いはない」
ちなみに前回紫さんが着て行ったのは臙脂色のドールドレス。袖と膝上までのスカートは三段重なっていて、折り返された襟口共々縁には黒いレーズが惜しげもなく使われていた。頭には黒いヘッドドレスと肩に届くほどの地毛にあわせたウィッグ。ショートでは似合わないから、という理由らしい。
この上に白衣を羽織って行ったのだが二十代~三十代の研究者には非常に受けた。しかし派手すぎる、パーティじゃない、など散々大人達に文句を言われていた。逆に着てきてはいけない理由とは何だと問われ、たじたじになっていたのだが。
「こ、これはこれで怒られると思うなぁ」
言いながら悠さんは別の雑誌を手に取ると紫さんへと差し出す。ブランド別のオススメ品のページから赤いフラワープリントのロングスカートとアイスココアの色をしたノルディック柄のニットキャミソールを指差す。
「これなら可愛いし、許容範囲内じゃないかな」
「むぅ。少し地味じゃないか」
「じゃあピンとかでちょっと飾ってみるとか」
図書室なので声は抑えているが二人とも楽しそうに次から次へと候補を挙げていく。その様子は研究室にいるときと同じように楽しそうなのに、どこか違う。
僕は手元にある本へそっと目線を落とす。本質であるアニマ、アニムスと仮面であるペルソナを図示した『優しい心理学』が、二人の雑誌を動かす勢いでぱらりとめくれた。
なお、結局学会の格好は環さんが指定した長袖の白いシャツにベージュのベスト、紺色のスカートという実に学生らしい格好になった。
Fine.