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2010.11.12 【飯】
Novel Stage / Fun Fiction:世界樹の迷宮Ⅲ
《Rice Ball》
「……なぁ」
カウンターにもたれかかりながら、巨大な鎚を携えた軽装の男性は中をうかがった。
そこにいるのはいつもの片言を話す胸の大きな女性ではない。いつもの白い帽子の代わりに三角巾で髪をおさえ、大きな白い割烹着を着て、せっせせっせと小さな手でお握りを作っている少女。
声をかけられたことに気付いた彼女は、夢中になっていても茫洋とした金色の瞳を男性へ向けた。手は変わらずにぎゅっぎゅと三角の形を整えているが。
「お前さん、あいつと同じでいいとこのお嬢様なんだろ。なんでそんなに弁当とか作りたがるんだ?」
目線の先には白銀の甲冑と錫杖を持つ宵闇の色にも似た長い紺色の少年。歩く所作、座る所作、どちらも酒場で見かけるには洗練された立ち振る舞いだ。
某国の王族というのも非常に納得できる。そして、今カウンターで場所を借りているこの少女も少年の縁でギルドを共に立ち上げたという。
「料理なんて自分でやらないだろ」
ぼんやりとした金色の瞳が男性の目線をゆっくり辿り、戻る。
そしてぽつりと柔らかい声が呟いた。
「自分で作るのは、温かいから」
「……あ?」
聞き返した時には少女は次の御飯の塊を手にしていた。熱そうな素振りも見せずにきゅっきゅと握る。
興味が自分から外れたのを見ると、男性はため息を一つついた。
「やめるつもりはないってことか」
言いながら手元のエールを呷る。これから探索へと向かうが、一杯くらいならむしろ動力源だと男性は考えていた。
そして指先を朝食へ伸ばすと先には黒い帯が横切る白い塊。
はい、とも、どうぞ、とも言わずに少女が握っていたお握りを差し出していた。
「……くれるのか?」
問いかけると、こくん。小さな頷きが返ってきた。
何度か少女の料理は食べたことがあるが悪食だったり下手だったりしていた訳ではなかった。特に断る理由はない。
「さんきゅ」
素直に受け取ると一口かじる。
小さな手で握られた御飯は半分くらいが一気に口腔へおさまり、保存のためか少し強めに塩味の効いた米の味が広がった。
握りたてなのでまだ温かい。その分味は尖っているが、身体に沁みていく温かみはやはり嫌いにはならない。
ふと目線を上げると、少女が手を止めて茫洋とした瞳をじっと向けていた。
「あ、美味いぞ。温かいし」
聞きようによっては温かいだけともとれる発言だが、少女は少し頬を綻ばせた。
またお握り作りを再開する。
ひょっとして聞き返したから実際の体験によってわからせようとしたのだろうか。そう思いながら男性は残りも口へ放り込む。
重箱はもうそろそろ埋まりそうだった。
Fine.